インタビュー:南雲忠信さん

南雲忠信氏 写真提供:http://www.yrc-pressroom.jp/

南雲忠信氏 写真提供:http://www.yrc-pressroom.jp/

世界不況が「横浜ゴム」の世界進出への情熱を冷ますことはない。今年5月、フィリピンでの増産計画を発表したのに続き、5月30日には、ロシア西部のリペツク州リペツク特別経済区で最初の新乗用車用タイヤ工場の開所式を行った。

ロシアは発電やインフラにかかるコストがヨーロッパよりも低いため、タイヤ生産分野でもっとも魅力的な国の一つとなっており、ロシアを拠点とした輸出が増える可能性がある。「横浜ゴム」の南雲忠信代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)に、ロシア進出のねらいについて聞いた。

- 御社がロシアの現地法人の建設着工について発表されたのは、世界金融危機が嵐のように吹き荒れていた大変な時期でした。なぜそんな時期にご決断されたのですか。

当時、当社には日本国内の生産拡大、タイとロシアへの本格展開など、複数のプロジェクトがありました。実際には、同時に世界のさまざまな国でビジネスを拡大することを検討していましたが、ロシアのプロジェクトに絞り、残りの計画は停止または凍結することに決めました。

横浜ゴムのロシア新工場について

ヨコハマR.P.Z.(*横浜ゴムのロシア現地法人)は、ロシアでのタイヤ生産を目的に2008年12月に設立された。現在の資本金は約37,6億ルーブルで、横浜ゴム80%、伊藤忠商事(株)20%の出資比率となっている。2010年3月に起工式を行い、48億ルーブルを投じて新タイヤ工場の建設を進めてきた。新タイヤ工場の建屋面積は4.3ヘクタール、年間生産能力は140万本で、2013年夏にフル生産に入る予定。横浜ゴムは現地生産能力を順次増強していく計画で、将来の拡張を見込みリペツク経済特別区から24ヘクタールの敷地を借用している。横浜ゴム公式サイト

- なぜロシアのプロジェクトはお進めになったのですか。御社にとってこの市場の優位点とは何ですか。

当社のタイヤはここで非常に良く売れ、販売数がピークに達した時がちょうどこの時期だったわけです。 ですので、不況ではありましたが、他の国と比較してロシアでは著しい市場減退はないと考えたのです。ロシアのプロジェクトの見積り投資額は一番大きかったのですが、不況による停滞でさまざまな支出が減ったことで実現可能となりました。

- ロシアのタイヤ市場における御社のシェアは、現在総販売量の5%と、あまり大きくはありません。この見解は正しいでしょうか。

正しいです。ただ、少し説明が必要になりますね。この市場とは、バスやトラック用のタイヤも含めた、すべての種類とサイズのタイヤ市場における当社のシェアです。当社は乗用車用タイヤを中心としておりまして、その分野では7%から8%のシェアになります。これらはすべて、自動車のオーナーの皆様に直接販売する、流通市場向けのタイヤです。自動車メーカーからの発注があれば、そちらについても考えていく予定です。

- 来年は中国の工場で操業を始められる予定ですね。ロシアと中国の市場を比較した場合、南雲さんのご視点では、どちらに将来性がありますか。

中国市場が他と異なる点は、自動車メーカーが使用したタイヤと同じタイヤを消費者が好むことです。したがって、ロシアとは逆で、中国ではメーカー向けのタイヤ納入を中心としているわけです。ヨーロッパ、アメリカ、ロシアの市場は、この点でより成熟していて、自動車を所有しながら、入念にタイヤを選んでいます。

しかし、中国市場の成長率は低下しているものの、販売量は非常に多いです。我々の分野の企業はほぼ全社が参入しているのが中国の特徴で、ロシアとは異なり、市場は今価格競争の段階へと移行し、価格低下が起こっています。これを背景に経済が悪化すると、価格低下に勢いが増し、中国の自動車メーカーにとってはこの上なく優位な状況となるでしょう。

- 新たな世界経済悪化のリスクはどれほどだとお考えですか。

可能性は十分あります。ヨーロッパ、ギリシャで起こっていることを2008年と比較してみてください。新たな形で不況が現れてきていますね。日本にもある程度のリスクはありますから、無視するわけにはいきません。

- 世界経済のバランスを取り戻すには、何が必要だと思いますか。

重要な要因となるのは、技術の更新です。例えば電力なら、その生成にかかるコストを削減します。これで原価を大幅に抑えられるので、この要因によってより良い製品をつくることができます。日本の東北大震災に関連して、世界はガスや石油といった伝統的なエネルギー資源に回帰しています。これらすべてがあまり良くない形で原価や環境に影響を及ぼしています。目下のところ、発電コストの割合は拡大していく一方です。例えば、当社の中国、フィリピン、タイの工場では、発電コストに比べて、人件費はほとんど変化していません。

- 御社はさまざまなエコ・プロジェクトに取り組んでいます。2007年、「ヨコハマ・フォーエバー・フォレスト」というプロジェクトも始められています。なぜエコなのでしょうか。

製造会社としてエネルギーを使用し、生産工程で炭酸ガスを大気中に排出しています。生産量が増えるほど、その影響は大きくなります。当社の目標は、利益を上げるだけではなく、世界の環境保護に投資していくことなのです。

- 御社は植樹もされているのですか。

はい。各工場の周辺に植えられていますし、林もできてきます。私も植えました。

- リペツク州でもそれが実践されるのですか。

もちろんです。

 ベドモスチ」紙抄訳

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる