ユース・ホステル市場が発展

モスクワの「ドム」ユース・ホステル =Photoshot/Vostock-photo撮影

モスクワの「ドム」ユース・ホステル =Photoshot/Vostock-photo撮影

モスクワはヨーロッパの他の首都とは異なり、宿泊施設が著しく少ない。ホテルチェーンAzimut Hotelsのマーケティング責任者であるマリヤ・ワシレンコさんによると、その数は住人1000人あたり客室約4室で、パリの8室、ロンドンの12室、ローマの20室に比べれば、その少なさがわかる。価格も高く、モスクワにあるホテルのうち庶民的価格が設定されているのは30%にすぎず、気軽に利用しにくい。ところが、今このホテル・ビジネスが大きく変わりつつあり、モスクワでは毎年10軒から15軒のユース・ホステルが開業している。

弱冠二十歳の成功例

ダニール・ミシンさんがユース・ホステルに興味を持ったのは、両親とヨーロッパを旅行した11歳の時だった。ベルリンで所持金が残り少なくなり、ユース・ホステルでの宿泊を強いられたが、安くても快適な施設に感動し、大人になったらミニ・ホテルの経営者になりたいと思った。当時、自宅のあるウクライナのセバストーポリ市にユース・ホステルはなかった。

ミシンさんは帰国すると、祖母から相続した2DKのアパートを改装するよう両親に頼み、新聞などを売り歩いて自分で改装費用の200ドルを稼いだ。開業1週間で、初の宿泊者となるアメリカ人旅行客4人が訪れた。インターネットでサービスを展開し、事業は軌道に乗った。

ミシンさんは現在20歳だが、すでに8軒のユース・ホステルを経営し、年間売上高は1億ルーブル(約2億5000万円)に上っている。8軒のうち3軒はモスクワ中心部に位置する「ベア・ホステルズ」ブランドで、残りはウクライナ国内の「ファニー・ドルフィン」ブランドだ。

 

 こだわりのない人向け

ユース・ホステルはモスクワのホテル市場のわずか3%を占めているにすぎず、ワシレンコさんはホテルの競合にはならないと考える。

「客層は25歳以下の、ユース・ホステルの利用を好む、こだわりのない人々に限られています。ユース・ホステルは時に安全を保障しきれず、衛生状態が悪いこともありますから」。

ただそう言いながらも、安価な宿泊費や中心地の立地を条件としているミニ・ホテルには、それなりの魅力があると認めた。

ミシンさんは自身の成功の理由について、優れた予約システムと積極的なインターネット戦略にあると説明する。

同社には予約部門があり、法人向けサービスで顧客の35%を法人としているほか、一般利用者向けに、事前予約なしでも当日に電話をすれば「ベア・ホステルズ」に1泊500ルーブル(約1300円)で宿泊できるという、緊急宿泊プランを用意している。

大人数部屋の平均宿泊代は1泊730ルーブル(約1800円)で、スリッパ、タオル、耳栓、WiFiの利用、また家電、食器類などの用意されたキッチンの利用といったアメニティーが含まれている。

 

 コストはあまり気にせずに

過剰にコストの心配をすることは、ビジネスを立ち上げたばかりのホテル経営者にありがちなミスだ。細かい部分で節約をしてしまい、優れたウェブサイトも構築できず、結果的に稼働率が落ちて元を取りにくくなる。ミシンさんは、モスクワのユース・ホステルを開業した日から、1日13時間ほどの時間をネット上のプロモーションに費やした。

モスクワのホステル

公式の資料によれば、現在モスクワには約60軒のホステルがあって大半が都心に位置している。宿泊料金は一泊平均10~20ユーロ(約1000~2000円)。

ナポレオンホステル」や「ゴジラ・ホステル」などが特に人気。この二つのホステルは、クレムリンまで歩いていける距離で、英語も通じ、空港までの有料送迎、滞在登録のサービスもある(約500ルーブル=1200円ほど)。シングルやツインの部屋もある。

「ドーム」の経営者の例も典型的だ。マリア・チモシェンコさんとコンスタンチン・オシンツェフさん夫妻は、モスクワにある旧モロゾフ(*帝政時代の商人、企業家の一族)邸の一階建ての離れでユース・ホステルの家業を営んでいるが、今年2月に開業したばかりで予約システム・ランキングの上位10位以内に入っている。

モスクワを離れる時に2DKのアパートを貸し出したことがあり、それをビジネスにしようと思いついたのがきっかけだ。「ドーム」のスペースは以前ヨガ・センターとして使われ、キッチンもあった。チモシェンコさんはこう経緯を説明する。

「改装やシステム・キッチンにコストをかける必要はなかったのですが、すべてを自分たちらしく変えていくことにしました。ユース・ホステルにはそぐわないような食器洗浄機も買ったんです」。自分で食器を洗わなくて済むユース・ホステルは、旅行サイトなどをのぞいてもここだけだ。

 

 月100万円以上

ロシアのユース・ホステルを含めたホテル・ビジネスには、世界有数の収益率の高さがある。マドリッド1%、アムステルダム4%、ロンドン10%となっている一方で、モスクワは平均20%だ。モスクワ中心部にある20人から30人収容の中型ユース・ホステルは、宿泊代が1泊700ルーブル(約1700円)で、1軒あたりの繁忙期の売上高は1カ月45万ルーブルから60万ルーブル(約100万円から150万円)、そのうち収益が20%から40%なのだ。

ワシレンコさんは高収益の背景についてこう述べた。

「ホテル・ビジネスの投資回収期間は5年から10年と長く、投資家の誰もが我慢できる時間ではありません。ただ最近は状況が大きく変わってきています。ここ3年、投資家やオーナーがプロのホテル経営者を探すようになってきているのです。ホテルに適した場所を選定し、効果的なビジネス・モデルを考案し、資金繰りを管理し、集中型予約システムで高い稼働率を維持することのできるような経営者です」。