ネズミづくしの町、ムィシュキン市

大河や湖を船が滑るように進んでいく。静けさと圧倒的に雄大な自然を満喫しつつ、のんびりゆっくり沿岸の古都を観光―。こんなロシアの船旅に、若い世代をもっと呼び込むべく、ブランド再構築が行われている。熱心に観光発展に取り組むボルガ川流域の街が、それに一役買っており、その新顔の代表格がムィシュキン市。町全体がネズミ関連のテーマ・パークだ。

レストラン「ネズミ捕り」

こじんまりとしたムイシュキン市には、「ムィシェロフカ(ねずみ捕り)」という名のレストランがある。ロシアには「無料のチーズはムィシェロフカ(ネズミ捕り)にしかない(タダほど怖いものはない、の意)」という有名なことわざがあるが、市名とことわざに引っかけてこの名をつけ、実際に無料のチーズをふるまっているというユニークなお店だ。

ムイシュキン市は、ロシア最長の大河ボルガをクルーズして寄港できる、多くの街の一つである。ちなみに、モスクワ北東の古都群「黄金の環」も船で回れる。

ロシアの船旅は、近年、誰にでも喜ばれるようなおしゃれな観光クルーズに生まれ変わりつつあり、その変化を実感できるのがムイシュキン市なのだ。

歴史と伝説からブランド・イメージを考案

この街は、ボルガ沿岸のウグリチとルイビンスクの中間に位置し、「黄金の環」の一角にある。


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ムィシュキン市のブランド・イメージは、この町の歴史と伝説にもとづいている。

ムィシュキンというと、文豪ドストエフスキーの名作『白痴』のムイシュキン公爵を思いだされる方が多いと思うが、この町の語源もやはり、ネズミ(露語でムイシ)から来ている。なぜネズミかというと、町の古い言い伝えと関係がある。

ある公爵が狩猟で疲れて、ボルガの岸辺で寝込んでしまった。すると、顔にネズミが飛び乗り、公爵は目を覚ました。見ると、毒蛇が自分に這い寄ってくるではないか! 公爵はネズミが自分を救ってくれたと思い、その場所に礼拝堂を建て、これが町の起こりとなった―。今でも市の紋章にはネズミが描かれている(市の公式サイト:http://www.gorodmyshkin.ru/

町全体がネズミ関連のテーマ・パーク 

街全体がネズミをテーマにしていて、観光客にはネズミのマグネットが大人気だ。埠頭では、ネズミの貴族やネズミの農夫(着ぐるみ)がクルーズ船を出迎え、ゲストハウスでは、ネズミの王様とお后様に謁見することができる。

もちろん、ネズミだけでパフォーマンスというわけにもいかず、人間も出演する。例えば、昔の農家では、数十人の俳優たちが雰囲気づくりに努めている。家の主人、お客の商人、娘と軽騎兵の婚約者、裸足で駆け回る子供たち…。

数時間この街にいると、あんまりネズミだらけでいささかボーっとしてくるが、子供たちは大喜びだ。

ボルガ川クルーズについて

6月から9月まで、4カ月間運行される。各クルーズ会社は、週末2日間のコースから3週間コースまで、様々な期間の船旅を用意している。

10日間のクルーズの価格は、船室の等級によって2万5000ルーブルから5万ルーブル(約6万円~12万円)。

人気の出発地は、モスクワ、サンクト・ペテルブルグ、サマーラ、ヤロスラブリなどだ。

大人にも楽しいスポットがある。例えば、古い車、バイク、ソリ、小船などの珍しい乗り物が展示されている博物館。

ムイシュキン地区(ムイシュキン市を含む)のアナトーリ・クリツィン地区長によると、市の人口6000人のうち、700人が市立石油蒸留企業に勤務し、ほぼ同数が観光業に従事しているという。2011年だけでも同市には、人口の27倍となる16万人の観光客が訪れており、今や名実ともに人気観光地だ。

ムィシュキン市に学べ

観光市場の参入者の多くが、多様なサービスを提供できるように努力しており、ムィシュキン市の成功例を参考にしている。船旅のルート上に位置する街の行政は、観光客にいかに長く滞在してもらい、車、電車、バスなど他の交通手段でも再訪してもらえるよう心を砕いている。

目玉となるのは、文化遺産や手工芸だ。ボルガ川沿いの人口150万人の大都市ニジニ・ノブゴロドから、北西へ53キロ進んだ先に位置するゴロデツ市では、工芸地区が設けられ、木彫師から織物師まで、様々な手仕事を見られるだけでなく、体験工房で、伝統的なゴロデツ様式のまな板に絵を描いたり、陶芸粘土でニワトリの形をした笛を作ったりすることができる。

ゴロデツは、ボルガ中流域最古の町の一つで、12世紀にボルガ河畔に築かれた要塞が起源。木工品と刺繍で名高い。

画家レビタンが描いたプリョス市

やはりボルガ沿岸の人口2500人の小さな町、プリョス市(イワノボ州)は、その光景が、画家イサーク・レビタン(1860~1900)の数々の名画に描かれたことで有名になった。

その博物館の前には、オーストラリアから来た旅行客がいた。リンさん(52)は「ロシアがこんなに多様な国だとは思っていませんでした」と驚いていた。夫のロバートさん(54)は、「ボルガ川クルーズは、モスクワとサンクト・ペテルブルグを訪れたときに勧められたんです」と付け加えた。夫妻は興奮気味で、競うように旅の印象を話してくれた。