アフリカのハダカデバネズミ =アントン・デニソフ/ロシア通信撮影
永久の命を求めて
すべてに死期が存在するということは明白だ。アイフォンから太陽系まで、物質的な世界のすべての物はいつか動かなくなる日がやってくる。生命の場合、細胞の一つひとつに体全体を修復、再生する緻密な構造があり、遺伝子が無限にコピーされながら組織が常に生まれ変わっている。「本のような遺伝子」という比喩的表現は、松尾芭蕉集でも古くなれば崩れ落ちてしまうことを意味するが、詩の内容は簡単に消えたりはしない。異なる出版社が何度も印刷をくり返していく。
理論上は永遠に生きることは可能と言えるが、進化の観点から言えば、老化や死は意義深いものである。動物は交尾し、子孫を残す。動物の遺伝子は信頼できる新たな住み家を見つけたら、それ以上元の動物に生きる必要はなくなる。資源を浪費しないためだ。老化、病気、死がなかったら、進化の速度は著しく低下する。独自の発展を遂げるなどという説は正しくない。
今日、より多くの科学者が、動物の遺伝子に自壊プログラムがあると考えている。すなわち、探して止めることが可能ということである。探索先はたくさん存在する。
生物学者は一つの研究方法だけに頼ろうとはしていない。幹細胞やホルモンで研究したり、人工臓器を培養したりしている。若さの秘策は、進化で寿命が延び、病気をあまりしなくなった動物に見出すことも可能である。
しわ、薄毛、大きな歯
ハダカデバネズミはアフリカのケニア、エチオピア、ソマリアに生息するげっ歯類の動物だ。顔には豚のような丸い鼻がついており、長い歯が二本その下に伸びている。
近年、世界の生物学者はこの動物に大きな関心を寄せている。その理由はハダカデバネズミが老化しないからだ。
哺乳類の寿命は、その大きさに比例すると言われている。ハダカデバネズミの体重は約30グラムだ。同じ体重のネズミは、しっかりとエサを与えても3年までしか生きられないが、ハダカデバネズミは30年も生きることができる。人間が500年から800年生きるようなものだ。さらに、ハダカデバネズミは年を取っても組織や循環系の状態が変わらない。死ぬ時も若い状態のままなのである。
もう一つの重要な点は、癌になるハダカデバネズミが一匹も発見されていないことである。生物学者の貴重な情報源であることは間違いない。
ロシアにおける研究
ノボシビルスクの中心に位置する、ロシア科学アカデミー動物分類学・生態学研究所。ここでは、ハダカデバネズミの代わりとなり得るロシアの動物、キタモグラレミングが飼育されている。
キタモグラレミングはハダカデバネズミ同様、穴を掘り、植物の根をエサとしているが、共通点はこれだけだ。キタモグラレミングは、ハムスターや野ネズミに近い種類だが、ハダカデバネズミは類似動物がいない。
キタモグラレミングについてもまだまだ不明なことが多いが、老化がないことが重要な点だ。
キタモグラレミング =エブゲニー・ノヴィコフ撮影
老化とは、体の状態を時間の経過とともに劣化させ、死に導くものであるが、科学者はキタモグラレミングにこの現象を見出していない。活動、運動性、筋力などの必要な指標が測定されたものの、ほとんど変化はなく、また、エネルギー変換効率にも低下が見られないなど、キタモグラレミングは時間が経過してもすべての点で若いままであることが判明した。
ただし、キタモグラレミングが老化しないというデータは、まだ非公認である。数匹分しか正確に確認されておらず、自然の中で捕獲されたキタモグラレミングがどれだけ生きるのかは完全に解明できていない。年齢が不明である上、シベリアの厳しい気候条件も寿命に影響する。
ノボシビルスクで生育された数十匹は、モスクワ大学の研究所に移送された。まだ調査の段階ではあるものの、キタモグラレミングには悪性腫瘍を退治する独自の手段を持っていることがわかっており、科学者はそれを老化遅延のメカニズムと関連付けようしている。実験が成功すれば、動物は相当の長期間を生きることができるようになる。この生物科学的な構造が、人間にも応用される時がやってくる。実験には多くの時間が必要だが、老化に勝つ理論的可能性があるというだけでも、気分が高揚するものだ。
(「ルースキー・レポーター」誌抄訳)
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