脱モスクワ現象

=タス通信撮影

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かつてのロシアには、モスクワやサンクトペテルブルグに近いほど良いとする傾向があった。だが、そうした傾向は急速に衰えを見せ、今や流行遅れとなってきている。ビジネスはモスクワを離れ、地方に移ろうとしている。

モスクワっ子のタチヤーナ・グラドィシェワさんは、通勤ラッシュ時間帯の午前9時に、五分で職場に到着する。仕事が終わると森を見渡しながら、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込み、思わずつぶやく -「ここの自然は最高」と。グラドィシェワさんのアパートは街の中心部に位置しているにもかかわらず、暮らしは快適そのものだ。なぜなら、ここはモスクワではないのだ。2009年、自身が勤務していた製菓工場「ボリシェヴィク」とともにモスクワからウラジーミル州に移り住んだが、地方での生活の快適さや得な部分を列挙すればきりがない。製菓工場は工場と管理職全員が丸ごと移転。グラドィシェワさんの専門レベルであれば、モスクワに残って他の仕事を探すこともできたが、新たな土地に移る道の方を選択した。

これは特別な例ではない。人材会社のアナリストによれば、オフィスに勤務する人々がモスクワ中心部から離れるという新しい傾向が生まれている。モスクワに近ければ近いほどステータスが上がるというホワイトカラーの常識も、ここにきて急速な変化を見せ、もはやおしゃれなイメージも消えつつある。リクルート・ポータルのSuperjob.ruが2006年に行った世論調査では、新しい街に引っ越し、新たな仕事に就きたいと考えるモスクワっ子が15%だったのに対し、今年5月の調査では、モスクワの企業の上層部や中間管理職のうち、24%がすでに履歴書を作成しており、新しい生活に移る心構えがある。また、管理職の移住が昨年から堅実な伸びを見せている。

個人の転職以外にも、企業がモスクワの外に目を向け、企業自体が移転し従業員がついて行くパターン、企業の一部の部署が移転し新たな人材も募集するパターン、企業の地方支社に実績のある管理者を送り、生産性の向上や従業員の教育を目指すパターンなどがある。

一生働ける転勤先を求めて

モスクワから脱出しようという考え方は、多くの人にとって現実的なものとなりつつある。モスクワの幼稚園、病院、良質な学校が空き待ちの状態となるなど、基盤整備や社会保障がひっ迫すればするほど、それらの問題を解決できる地方の利点に人々は気づき始めるのだ。

石油化学企業「シブル・ネフチェヒム」(本社はニジニ・ノヴゴロド市)モスクワ事務所に勤務するピョートルさんはモスクワで育ち、学んだが、今は同社の地方の子会社への転勤を真剣に考えている。

「西シベリアのトボリスク市に新会社が設立されるんですが、新たな人材を必要としています。私の専門分野とちょうど合っているので、行きたいなと思っています。理由の一つとして、転勤すると給与が下がるどころか上がるので、物価がさほど高くないトボリスク市では節約ができることです。二つ目として、自然の中の一戸建てが社宅として与えられることです。妻と小さな子供がいるので、これはかなり魅力的です。モスクワでは、一番近い自然でも車で15分走らなければいけませんから。ここなら目の前にあるので、申し分のない条件ですよ」とピョートルさんは語る。

とはいえ、すぐに永住を考えているわけではない。トボリスク市への出向期間は2年で、その後モスクワに戻るという選択肢もあるのだ。

ロシア科学アカデミー社会学研究所社会流動性調査部のミハイル・チェルヌィシュ部長はこう考える。「ロシア人には、一つの場所で生活と仕事をしながらも、本当の家を、家族全員が休日に集まる郊外のダーチャ(別荘)とする習慣が根付いています。ですので、モスクワっ子というステータスを保ちつつ、自分の金銭状態の改善や新しい印象を求めて、一時的に新しい街や地域に抵抗なく行くことができるのです。お金だけでは人は動きません。現代人にはやりがいのある仕事やより良い生活条件が必要となるのです」。

このような物質的、非物質的な従業員のモチベーションを満たすには、企業にとってはそれなりのコストがかかる。それでも、大企業であれば管理職の移住コストをまかなえるはずだ、と多くの専門家が指摘している。

(「アガニョーク」誌抄訳)