等身大のトルストイ評伝の決定版:『トルストイ』

本書は今年1月に急逝したトルストイ研究の第一人者による、半世紀を超える研究の集大成である。A 5判700頁の大冊で、トルストイの振幅の大きな82年の生涯を、複雑で矛盾に満ちたその宗教観、国家観、民衆観、歴史観、革命観などをていねいにときほぐしながら、著者はユーモアとイロニ―をまじえた文体でみごとに描きだす。『戦争と平和』、『アンナ・カレーニナ』、『復活』などの代表作を、過去の膨大な研究を咀嚼したうえで、独自の解釈を提起しているのはもちろん、彼が創作に劣らず多大な精力を費やした農場経営、戦場体験、教育事業、宗教批判などにも周到な目配りがなされていて、人間トルストイを全体として理解しようという著者の意図は理想的な形で達成されている。

(早稲田大学講師・杉里直人)