「ファースト・フード」の意味が異なるモスクワ

ロシアの「マクドナルド」

「スタードッグ」のフレンチ・ホットドッグを食べる筆者

「スタードッグ」のフレンチ・ホットドッグを食べる筆者

 私の出身地では、ファースト・フードと言えば、「マクドナルド」や「タコベル」や「バーガーキング」などの大手チェーンのことを指すが、モスクワでは事情が全く違う。アメリカの大都市の事情は分からないが、少なくとも郊外や田舎では、ファースト・フードと言えば、車の中でも、家でも、店内でも、すぐ食べられる食事を提供する人気チェーンが大半である。しかし、モスクワのファースト・フードは、街角で通行人の空腹感を満たす無数の売店のことを指す。

 面白い事に、モスクワの外食産業で生き残るために、「パパ・ジョン」や「バーガーキング」などのレストランは、もう少し格の高い(そして値も高い)ものに進化した。「マクドナルド」での食事は10米ドル近くもかかり、かつ、食べ終わるまで一時間程かかることもある。長蛇の列もあり、「マクドナルド」に行くのは億劫だ。だが、どこにでもある街角の売店では、熱々なだけではなく、美味しく、持ち運びに便利な食事を、安値で提供してくれる。

 こうしたモスクワのストリート・フードの利点は、その種類の豊富さである。名もない売店から大手チェーンまで選択肢が多いため、いつも同じものを食べて飽きることはない。大手チェーンは、「クローシュカ・カルトーシュカ」、「テレモーク」、「スタードッグス」から、アメリカの定番「サブウエイ」まである。「スタードッグス」は、アメリカで人気のホットドッグのロシア版。「テレモーク」はロシア風パンケーキ、ブリヌイの専門店で、「クローシュカ・カルトーシュカ」では、巨大なジャガイモに好きなトッピングをのせることが出来る。

「テレモーク」のブリヌイとボルシチ 提供:コメルサント紙

「テレモーク」のブリヌイとボルシチ 提供:コメルサント紙

 だが、これらのチェーンにより提供される素晴らしい選択肢も、無名の売店の味と種類の豊富さにはかなわない。このような売店の食べ物は美味で安く、たいてい、小麦製品を果物、砂糖、肉、キャベツやジャガイモと合わせたものである。シャウルマ(中東料理をアレンジした、野菜やソースを含む豚肉料理)から、数百種類もあるピロシキ(様々な中身の詰まったパン)まで、座って食事につくまでの空腹感を満たすのにちょうどいいものが必ず見つかる。

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 他のものが欲しければ、ロシアのピロシキ(ゆでてから揚げたこのダンプリングにはしばしば、肉やザウアークラウトが詰まっている)、スィルニキ(分厚いロシアのパンケーキ)、ヴァトゥルーシュカ(デニッシュに似たもの)、ブリヌイ、シャシリク(グルジア風ケバブ)、ウインナーソーセージにパンの生地を巻いて焼いたものなどもある。

 このように選択肢は無限だが、それよりさらに驚くべきなのは、売店の数の多さである。種類の豊富さ、値段の安さ、速さ、便利さに秀でているモスクワのファースト・フードにいつも感嘆する。モスクワの食品業界の種類の多さと便利さが、アメリカの同種業界との明らかな差であろう。

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