東京大学 大学院講師, 鳩山紀一郎
交通問題への取り組みは医師の仕事に似ている。患者つまり都市それぞれの個性を考慮しながら、経験や知識の蓄積、そしていくらかの洞察力を使って問題の解決法を考えるからである。東京とモスクワの道路の面積と自動車保有台数を比較すると、モスクワは面積あたり東京の1・8倍の車がある計算となり、事態ははるかに深刻だ。
しかし、東京とモスクワには、例えば道路網が環状道路と放射道路からなる点や、多くの市民が地下鉄を利用している点など、共通点も多い。東京の経験は、世界最悪といわれるモスクワの渋滞の解決に役立つのではないかと私は思っている。
短期的改善策
短期的改善策としては、信号システムや右左折規制のポリシーの変更、ドライバーへの道路交通情報提供、交通事故処理の迅速化、駐車場の整備と駐車禁止箇所の明確化などが考えられる。
渋滞に繋がる行動や駐車を集中的に取り締まる渋滞改善隊を設置し、日本の駐車監視員のように民間に業務委託する方法もあるだろう。
一方、これらのような対症療法だけでなく、システム全体を向上させる長期的改善策も考える必要がある。私は以下の4点が特に重要であろうと考えている。
長期的改善策
第一に、人々の流動状況をきちんと調査し分析することだ。これは将来計画を効率的に行うためには不可欠である。東京など主要都市では人の動きを細かく調べる「パーソントリップ調査」という大規模な調査が 10 年ごとに実施されているが、現在のモスクワにはこのような調査はないという。
第二に、公共交通の位置づけを明確にすることだ。モスクワでは地下鉄こそ多く利用されているが、バスや路面電車の利用は減少している。例えば地下鉄がカバーできていない地域にこれらの公共交通を特化させつつ、サービス水準を徹底的に向上させるなどの工夫が必要になるだろう。
第三に、環状と放射の都市構造を最大限に活用することだ。この構造は乗り換えターミナルを作りやすい構造であり、公共交通の利便性を向上できる素地を持っている。現時点ではそれをうまく活用できておらず、鉄道、地下鉄、バスなどの乗り換えが不便なことが多い。
第四に、ドライバーの行動を改めることだ。インフラや交通処理でいくら工夫をしても、交差点に押し寄せたり割り込んだりという、モスクワでよく目にする行動では、充分なパフォーマンスは発揮されない。
「スマートドライブ」などのキャンペーンを行うことも一つの手段であるが、人々の交通行動を自発的に好ましい方向へ向かわせることを目的とした「モビリティ・マネジメント」なども参考になるだろう。
(「ベドモスチ」紙抄訳)
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