「タイタニック」号を50回以上調査し同船の秘密をよく知る潜水技術士のアナトリー・サガレヴィッチさん=タス通信撮影
-伝説の船が沈没した場所を幾度となく調査されていますが、初めて「タイタニック」号を目の当たりにした時の印象は覚えていますか。
あの瞬間を忘れることはできません。1991年7月に、映画「タイタニック真実の姿」のスティーヴン・ロウ監督と仕事をした時のことでしたが、海底に現れた姿を見て、衝撃を受けました。互いに800メートルほど離れた巨大な船体が2隻見え、すぐに壊れたマストの先と、曲がった展望室が見えました。この展望室は、最初に迫りくる氷山を発見した場所である可能性があります。くずれた船倉には、裕福な乗客の所有物とみられる自動車の骨組みもありました。船縁の先のデッキには、スミス船長の船室のインテリア、浴槽、ベッドが見え、破損していない四角い明かり窓の先には、士官船室が見えました。細かく見て行くと、突然起こった悲劇の爪痕が見えました。「タイタニック」号は人類の大きな悲劇を具象化しています。
-ジェームズ・キャメロン監督が、有名な映画「タイタニック」の構想を伝えたのはいつですか。
1992年4月、ロウ監督の映画「タイタニック真実の姿」が封切られた時に、キャメロン監督と初めて会いました。監督は初めてこの悲劇の長編映画を撮影する構想を打ち明け、潜水艦を見たいと希望しました。監督は物事の核心まで迫るのを好む性格です。数カ月後にロシアに来て、調査船「アカデミック・ムスチスラフ・ケルドィシュ」や深海探査艇「ミール」を見学し、映画を撮りたいという気持ちがさらに強まったようです。キャメロン監督はいくつかの質問を私にしてきました。水中ばかり映す映画は少ないので、いい筋書きがほしいと。監督には、世界は暴力や流血にうんざりしているので、人間関係や愛を描くべきだと提言しました。「君の解釈では、愛とはどういうものかい」と聞いてきたので、私は少し考えて「愛とは飛行だ」と答えました。この会話は、監督も恐らく記憶していると思います。監督がアメリカに帰国した後も、FAXで連絡を取り合いました。その2年後、映画の構想が消えたと思っていた頃に、監督が私のアパートを訪ねてきました。「すべてが解決したよ。仕事を始めよう」といい、それぞれがお決まりの準備作業に着手し始めました。
=タス通信、 AFP / East-News、Corbis / Foto S.A.撮影
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-どのような作業ですか。
装置の準備や検査などほとんど不要で、決められた場所に行って水に潜り、撮影すれば終わりと思っている人がいるかもしれませんが、水中に潜って質の高い映画をつくるためには、技術を急いで開発する必要がありました。潜水と上昇も含めた深海での作業は数時間を要しますが、カメラにセットできる予備フィルムは、数分の撮影分しかありません。この映画のために、監督は「パナビジョン」社に特別仕様のカメラと、「コダック」社に通常の3分の1の細さのフィルムを発注しました。心配はしたものの、深海でのカメラ撮影は20分で十分でした。撮影では、すべてを極めて合理的に進められるよう、努力しました。
-どのようにして合理化しましたか。
潜水前に毎回打ち合わせを行い、2隻の「ミール」の模型を使って、相互の作業を研究しました。すみずみまで打ち合わせをしていても、深海では流れや海底のにごりなど、予期できない問題が発生することはわかっていましたし、実際には即応力が求められました。
-キャメロン監督はサガレヴィッチさんと一緒に深海に潜りましたか。
毎回潜りました。調査の第一段階の19日間で、12回潜水しました。キャメロン監督は情熱的に作業し、熱中していました。深海での潜水艦内の温度は12度以上にはなりませんが、潜水艦が上昇する前には皆が汗をかいているほど、計画された仕事をこなすことに熱中していました。
-「タイタニック」の撮影が終わった後、キャメロン監督は深海に魅了されていましたか。
はい。キャメロン監督は「ミール」の乗員と提携し、他にもサイエンス映画をいくつか撮影して人気となっています。新たな潜水艦を造る構想に燃え、深海潜水艇「ディープシー・チャレンジャー」に投資し、(今年の)3月末にはマリアナ海溝の最深部への潜行に成功しています。天才はすべてにおいて天才です。我々潜水技術士にとって、監督は自身の分野で成功している同僚といえます。
-「タイタニック」号事故から100年目となる今年、沈没した場所を再度探索する予定ですか。
それは、モスクワ資産管理局とロシア連邦国家資産管理局の職員が、どれぐらい早く税率を計算し、オークションを始めるかにかかっています。ドイツのパートナーは、「タイタニック」号や第二次世界大戦中に沈没した戦艦「ビスマルク」まで、「ミール」で潜水したいと考えています。オークションの準備には2カ月以上を要するということですから、探索はその後になります。ですので、今年も恒例の西大西洋の探索ができるかは、まだわかりません。
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