カフカース山脈

ロシア人に「カフカース(英語名:コーカサス)」と聞いて思い浮かべるものをたずねたら、山、戦争、ジギート(乗馬の名手)、山岳住民、イスラム教、料理、もてなし好き、休暇先、などといった答えがかえってくるはずだ。

  「カフカース」とは、正しくは山の名前で、ロシア連邦のリストにはこのような地域名は存在しない。この山脈は、黒海からカスピ海まで東西を横切り、実質的にロシアと中東地域を隔てている。最高峰はエルブルス山(約5600m)で、カズベク山(約5000m)がそれに続く。地震はほとんどなく、大半が死火山だ。

 

戦争

  カフカースをめぐっては、ほぼすべての時代で戦争が起きている。戦略的に極めて価値の高い地域であるためだ。黒海とカスピ海の間の細い地峡を占め、ヨーロッパから陸上経由で中東へ移動できる、ニ本のルートのうちの一本となっている。商人には、リスクを冒して海を渡るか、バルカン半島とトルコを経由して行くか、カフカースを経由するか、という選択肢があった。歴史的にこの場所は、ロシア帝国、クリミア・ハン国、オスマン帝国、あるいはペルシアの一部となったこともあれば、それぞれの独立国家となっていたこともある。この地域では、19世紀の間中、常にカスピ海への出口を求める戦闘が繰り広げられていた。衝突が起こらなかったのはソ連時代だけだ。これをソ連の国政が正しかった結果だと見る研究家もいれば、逆に社会主義政権が厳しく抑圧していただけで、ソ連崩壊後の反動の引き金となったとする研究家もいる。

 

ジギート

 カフカースでは、乗馬がもっとも得意な人をこう呼んでいた。馬の調教術やさまざまな障害飛越競技など、ジギート馬術もある。

 

山岳住民

 ロシアには、山岳系住人のいる地帯がカフカースとアルタイの二カ所ある。山岳住人(ゴーレツ)は、勝ち気で血気盛んである。また、モラル、品性、誇りについての独特な定義があり、独自の生活規範を守っている。例えば、女性を侮辱することはあり得ない。山岳住人の前で、誰かが女性(特に親族)について無礼なことを言ったら、その住人の名誉にかかわる問題に発展し、何がなんでも発言者に言葉を撤回させるか、その人間に言葉の重みを「思い知らせる」。多くの家族が家父長制である。年長者の言葉は絶対的で、女性は男性に服従する。とは言え、女性は家事を完全に仕切っていて、家のインテリアや整理整頓、または客人のもてなしについて、男性は口を挟めない。

 

イスラム教

 カフカースはイスラム教が広く信仰されている、ロシア国内でも数少ない地域のひとつである。これが、武装も含めた闘争が頻発する原因ともなっている。

 

料理

 カフカースは比較的小さな地域であるにもかかわらず、この独自の料理はロシア全土に普及している。スパイス、ハーブ、ペッパーなどを大量に使用するのが特徴だ。

 シャシリク=Photo Xpress撮影

シャシリク=Photo Xpress撮影

 シャシリク: 漬け汁に漬けた肉を串に刺して裸火で焼く串焼き肉。伝統的なシャシリクは羊肉でつくられるが、現在では豚肉、牛肉、鶏肉、魚と、バラエティー豊かだ。

 ハチャプリ: チーズを加えて焼くパン。さまざまな種類のハチャプリがあり、もっとも一般的なのは、クラシック(パンの中にチーズ)、アジャール風(パンの凹部にチーズと中心に卵)、イメレチ風(パンの中と上の二層チーズ)である。

 サツィヴィ: 鶏肉をカシグルミとザクロのソースで煮た料理。伝統的なサツィヴィは、冷ましてから食べる。

 ロビオ:たくさんの調味料を使用するインゲン豆のナッツソース煮。

 トゥケマリ:ベニバスモモの酸味と甘味のソース。赤色や緑色のソースがある。

 アジカ:「アブハジアの塩」とも呼ばれる調味料。実際、それほど塩には似ていない。辛みの強い赤色の塩系調味料で、原材料は、塩、トウガラシ、コリアンダー、ディル、パセリである。

 ドルマ: ハーブ入りのひき肉の生地をブドウの葉で巻き、その煮汁で煮込んでいく料理。

 ハルチョー: 骨付き羊肉の、辛くこってりしたスープ。

 

もてなし好き

 これはカフカースの山岳住人の特徴である。世界中のどこでももてなす伝統はあるが、ここでは特別な配慮がほどこされる。山岳住人の家を訪ねた客人には、家にある最高の食材から作られた料理をふるまわれる。たとえ、もてなしすぎて家の羊肉や小麦粉のストックがなくなったとしても、喜んでごちそうするのが流儀だ。

 

休暇先

 カフカースがロシアの一部になるや否や、休暇リゾートとなった。初めのうちは貴族だけが利用していたが、やがてロシアの誰もが訪れるようになった。ロシアは寒い国だが、カフカースは南端に位置し、もっとも温暖な地域である。

 この比較的小さな地域には、二つの海、山々、谷、グルメがそろっており、バラエティーに富んだレジャーを満喫することができる。目下、基盤整備のみが足りない状態だが、この地方の行政がその問題を解決すると約束している。また、州や共和国の政府以外にも、「北カフカース保養地」や「北カフカース開発コーポレーション」などの民間企業も、この地域の観光開発に取り組んでいる。