パンクから信仰生活

俳優 ピョートル・マモーノフさん =Kinopoisk.ru 撮影

俳優 ピョートル・マモーノフさん =Kinopoisk.ru 撮影

プロフィール

生年月日:1951年4月14日 

年齢 : 60歳

 マモーノフさんは1970年にトロリーバスの中で一人芝居の不条理劇を演じ、評判になる。80年代初めにバンド「ズブーキ・ムー」を結成。

 1989年にロンドンで録音されたアルバム「ズブーキ・ムー」がリリースされた後、彼は自分の殻に閉じこもり、グループを解散。俳優としては、パーベル・ルンギン監督の 『タクシー・ブルース』、『島』などに出演。近作『ツァーリ(皇帝)』ではイワン雷帝を演じた。 

 初老の男が背中を丸めてベンチに座っている。痩せぎす。はげ頭。前歯はほとんどなく、スティーブ・ジョブスにもイワン雷帝にも似ている。

 「世界は一つの有機体なので、一つの細胞が病めば、有機体全体にとってよくありません。一本の歯が痛むと『あ痛!』って全身が悲鳴を上げるでしょう。それと同じですよ」。

 こう話すピョートル・マモーノフさんは、1980年代のアンダーグラウンド・ロック音楽界の寵児だった。
マモーノフさんのコンサートでロシアのパンクは育った。劇場では、その身振りの魔力と荒くれた熱情で、不条理な一人芝居という独自のジャンルを生みだし、毎年、満員の観客を集めていた。

 しかし、そんな波瀾に富んだ生活は過去のものとなり、モスクワ州の片田舎から出ることはめったにない。そこでもう 15 年妻と暮らしている。キリスト教を深く信仰し、外界との接触を最小限にしたのだ。

 

45歳の転機

「45歳くらいの頃、私は行き詰まってしまいました。それから信仰が訪れました。自分がなぜ生きているかを悟ったのです」と述懐する。

 世間は彼のことを忘れず、モスクワで稀に催されるコンサートでは、観客が文字通り鈴なりだ。マモーノフさんは「キリスト教以前の時期」の歌も演奏している。こんなふうに生きるべきではない、と注釈を付けながら。

  今や彼はむしろ俳優として、そして、思ったことを何でも言う、ロシア正教の「神がかり」として知られている。

 

ひ弱な諜報員に何が?

  マモーノフさんは 、 2006 年に映画『島』(パーベル・ルンギン監督)で、悔い改める修道士の隠遁者を演じた。映画賞の授与式に、ジーンズにスニーカーで現れ、「会場には心の問題を憂える者が一人もいない」と正装の芸能人たちに逆ねじを食わせた。

 「プーチンがこれを解決すべきですって? プーチンなんてひ弱な諜報員にすぎませんよ。彼に何ができます? 私たち自身が何かをしなくてはならないのです」とマモーノフさんは言い放ち、ショービジネスに勤しむ者たちは鼻白んだ。

 なぜ人々はあなたを信じ、あなたに会いたがるのかとの問いに「わたしが罪や過ちを含めて自分のすべてのことに正直で誠実だったからでしょう」と答えている。

 もしかすると、これが今ロシアで一番求められている思想かもしれない。

「島」、2006年、ピョートル・ルンギン監督

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