減らない孤児

=タス通信撮影

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現在、ロシアの孤児は69万7千人。独ソ戦の全期間に孤児になった67 万8千人を上回り、最近10年間では延べ150万人に達する」—2010年4月、下院(国家会議)総会で、家庭・女性・児童問題委員会委員長エレーナ・ミズーリナ議員は、近年の経済成長にもかかわらず、孤児問題が置き去りになっている状況に警鐘を鳴らした。

 児童人権問題大統領全権代表パーベル・アスタホフ氏によれば、2010年現在、孤児の約75%は養父母に引き取られているが、孤児院など児童養護施設で養育されている子供は13万人にのぼる(2011年7月20日付「独立新聞」)。

  一方、NGO(非政府組織)「子供の人権」のボリス・アリトシューレル代表によると、ロシアでは毎年約10万人が孤児になり、その4分の1が養護施設に収容される。2009年度の統計では、養護施設の児童数は、常に30万人を上回っており、うち20万人の生みの親は生存しているという。

 この親たちは、貧困、麻薬、アルコール中毒、犯罪など様々な理由で親権を失ったか、自ら育児義務を放棄したかだ。

家庭崩壊が主因 

 ロシアの孤児問題の背景としては、家庭の崩壊が大きいことになる。ソ連崩壊にともなう社会の流動化、価値観の崩壊、地方の経済難、最近の経済危機などが根底にあるとみられている。

 アリトシューレル氏によれば、最大の理由はやはり家庭の貧困だ。地方や旧ソ連圏の若い女性が、モスクワなど大都市に出稼ぎに来て、子供を産んだものの、経済的な理由などで育てられず、養育を放棄する場合も多い。

 その一方で、崩壊に瀕する家庭に対して金銭面、心理学的ケアなどの面でタイムリーにきめ細かい援助が国からなされないことが、事態をさらに悪化させている、とアリトシューレル氏は指摘する。

「家庭を知らない世代」

  アスタホフ氏いわく「家庭というものを知らない世代が出現した」。

 事態を重くみたプーチン大統領(当時)は、2006年に上院(連邦会議)での一般教書演説で、「孤児に家庭を与え、孤児院の子供の数を減らすため、養父母に対する金銭的援助の額を著しく増やす」方針を打ち出した。

 鶴の一声で民法が改正された。孤児養育への奨励金、養育費等の細目と金額は各自治体で決められる。

金目当ての養子縁組も 

 しかし、これは別の弊害も生んだ。ミズーリナ議員の言う「養子縁組の商業化」だ。とくに、貧しい地方で、金目当てに孤児を引き取るケースが多発、4分の1がこれにあたるとの推定もある。

3人に1人はUターン

  引き取られた子供の3人に1人は、再び孤児院に返されている。例えば、2009年、カリーニングラード市で、子供1人を持つ若夫婦が2歳の男の子を引き取り、養育補助金30万ルーブル(*1ルーブル=約2,5円。約75万円)と合わせて母親資金をもらい、住宅ローンを組もうとした。が、ローンを断られると、その翌日には子供を孤児院に返してしまった。

 母親資金とは、第2子以降が誕生する度に36万5千ルーブルが母親に支給される制度。

 孤児院の経営にも色々問題がある。アスタホフ氏によると、最も貧しい自治体でも、孤児1人当たり30~35万ルーブルが養育費として連邦予算から支出されている。年間200万ルーブルほど支出している地方都市もあるが、金の使われ方は極めて不透明だ。

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