世界の根本的な謎

『父、帰る』=kinopoisk.ru撮影

『父、帰る』=kinopoisk.ru撮影

 2003年のベネツィア映画祭でグランプリの金獅子賞に輝いたのがこの作品。アンドレイ・ズビャギンツェフ監督 (47)は、この映画が初監督作品だっただけでなく、映画製作を専門的に学んだこともなかった。


 12年間行方不明だった父親がある日、突然、家族 (母と妻と息子二人)のもとに帰ってくる。父は、今までどこにいたのかさえ語らぬまま、翌日、息子二人を誘って車で旅に出る。三人は釣りをした後、さらに走り続けてある浜辺にたどり着き、小船で無人島に渡る。だが、そこで悲劇が起こる…。

 カットは長回しではないが、名匠タルコフスキーを思わせる、じつに重厚な画面だ。しかし、物語は分からないことだらけ。謎が謎を呼び、父親の過去も行動も、ついに最後まで完全に明らかになることはない。

 しかし、いつしかその謎が見る者を吸引し、それは結局、世界が秘めた根本的な不可知と不条理なのだと納得させられるだろう。映画はこの謎に耐えることを鑑賞者に求める。耐えた人の前には、出来合いのモラルを超越した深い宗教性が立ち現れてくるだろう。

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