バーチャル政治の勝利

= ニヤーズ・カリム

= ニヤーズ・カリム

米国・国家安全保障会議(NSC)のスポークスマンは「米国は欧州ミサイル防衛(MD)システム配備計画を変更するつもりはない」と発表した。これがメドベージェフ大統領の声明に対する米国の反応だった。メドベージェフ・ロシア大統領は、もし米国が欧州ミサイル防衛をさらに推進し続けるなら、ロシアは新戦略兵器削減条約(新STRAT)から脱退し、弾道ミサイルを追加配備すると警告した。こうしたロシア大統領の声明は、第一にロシアの視聴者向けのものだった、と筆者は考える。

英国のジャーナリスト、トム・ハースト氏は、メドベージェフ大統領の声明について、

「ミサイル無しのキューバ危機のようだ」とツィッターで皮肉った。確かにそのとおりで、ロシア大統領は、まだ完成していない欧州MDシステムの推進に対抗して、まだ存在していない弾道ミサイルを配備すると警告する。その欧州ミサイル防衛もまた、まだどこへも飛んでいないイラクのミサイルを迎撃せねばならないという。一方、1962年にフルシチョフがキューバへの大陸間ミサイルの配備を決めたときは、このいわゆる「自由の島」に、実際にミサイルが配備されたのだ。そのため現実に、あわや核戦争が始まるところだった。

今日、われわれが見守るのは、バーチャル政治の最終的な勝利だ。オバマ大統領は以前から、ロシア指導部のさまざまな希望をかなえてきた。欧州MDシステムがロシアに向けられることはない、と文書で保証さえした。しかしクレムリンは、そのテーマに限定した議定書を、それも米国議会が批准するような議定書を求めた。ホワイトハウスは「否」と回答した。そんな文書が議会を通過する見込みはまったくないからだ。オバマ大統領にとっては、これを議会にかけるよう働きかけることは、政治的な自殺行為になったはずだ。

振り返ってみると、オバマ大統領は非常に苦労して新STARTの批准を勝ち取ったのだ。米国の上下院議員らは、オバマ大統領がクレムリンを過度に信頼するのを以前から非難している。オバマ大統領はこの問題に関し、ロシア側パートナーの理解を当てにしていたが、それは無駄だった。メドベージェフ、プーチン両氏も、自分たちの選挙戦の事情をかかえているのである。

つまり、反西側的な表現は絶対命題であり、ここでミスを犯すわけにはいかないのだ。この種の声明を他ならぬ、メドベージェフ大統領が行っているのは偶然ではない。大統領復帰がほぼ確実になったプーチン首相は、今後は現大統領の発言を軟化させるだろう。ミサイル防衛(MD)交渉も、緊急性のない公開の口論をくりかえしながら、続けられていくだろう。実際、ロシアも米国も、両国間で核戦争が決して起きないことをよく知っているのだ。