「チェブラーシカを何百回も見た」

中村誠さん =コメルサント紙撮影

中村誠さん =コメルサント紙撮影

ご存知、ロシア人形アニメの傑作、チェブラーシカ。その新作が2010年に中村誠監督のもとで製作され、早速モスクワでも上映、大好評を博した。近く大々的に一般公開される予定だ。訪露された中村さんにロシアNOWがインタビューした。

 「日本人の僕が作ったからといって、チェブラーシカは侍になるわけでも芸者になるわけでもありません。皆さんご存知のキャラクターはそのままですよ」。

 このアニメは日本でも大人気なのに新作がなかった。1969年から1983年までに作られた4作をみんなが繰り返し見ていた。じゃあ新作を作ろうとプロデューサーが決めて、中村さんが監督に指名されたと言う。

 「僕が目指したのは、ロシア版のロマン・カチャーノフ監督が生きていて、今の技術で作ったらどうなるのか、そういうトライだったんですね」。

 ファンの心の中に生きているチェブラーシカを現代に甦らせる。そのために中村さんは「カチャーノフのスタイルと現代のそれを繋いだ」と説明する。

 「今の映画はアップの映像が多くて、展開が速い。それを僕が『ちょっと違うんじゃない?』と思われない範囲で、ぎりぎり遠くまでカメラを引いて、カットの長さも引っ張ったんです」。

 製作途中でロシア版のスタッフにも鑑賞してもらった。 

 元々チェブラーシカとワニのゲーナは、ロシアの児童文学作家、エドゥアルド・ウスペンスキーの絵本のキャラクターだ。作家は子供の頃、耳の大きな不良品の玩具にチェブラーシカと名付けていた。また後年、友人の幼い娘が毛皮のコートを羽織って、床を引きずり、転んだとき、友人は「チェブラーフヌッツァ(ばったり倒れる)したぞ!」と叫んだ。「こうして私の主人公の名が浮かんだ」と作家は回想している。

 「具体的にこれはこうしなさいとは言われませんでしたが、昔のチェブラーシカを何百回も見たし、アニメーション作家、ユーリー・ノルシュテインさんやカチャーノフさんの作品も本当に何百回も見て、ロシアのスタイルはどういうものなのか考えていました」。

 チェブラーシカ以外では、ノルシュテインの『霧につつまれたハリネズミ』の悲しい話が好きだという。ロシア・スタイルを究めようと何度も訪露しているうちに「ロシアもロシア料理も好きになった」と笑う。

 製作 には韓国のスタジオを使った。

 「良い意味で非常に若いスタジオで、トップの方が型破りなんです。もっと天井の高さが欲しいなあと思えば、大家さんに何も言わないで、天井にドーンと穴を空けちゃいます(笑)」。

 新作はロシアのファンの心もつかんだようだが、ご本人の手応えは。

 「みんな笑ってくれたし、日本ではありえないことでびっくりしたんですけど、エンド・ロールの時にみんなが拍手をして、タイトル・ロールを背景に記念写真を撮る人がいました。そこで明かりがついてしまったんですが、誰も立たずに『終わり』と言う言葉が出るまで見ていました。成功だと思います」。

 チェブラーシカの人気の秘密は何だろうか。

 「チェブラーシカは、自分が一体何者なのか、自分がこれからどうなっていくのか悩んでいますけれど、こんな気持ちは誰でも持っていると思います。それをチェブラーシカが揺り動かす。ロシアの人達も一緒じゃないでしょうか」。

 犬を7匹も飼っている優しい中村さんならではの答えと感心した。これからもロシア・スタイルを生かした作品を創ってくれることだろう。 

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