コンスタンチン ・アグラゼさん=「ロシースカヤ・ガゼータ」紙撮影
―ロシアの厳しい現実はご存知ですよね?
「ソ連時代に学者たちは、この国の仕事の遂行期間には「π」(パイ=円周率)をかけなくてはと冗談に言っていました。今 10 年ぶりにロシアに帰って来て、「πの二乗」をかけないとだめだと思いました。
研究室に仕切りを作るのに何ヶ月もかかっています。金銭の流れも不透明で、 36 万ルーブルで済むところを、なぜか 90 万ルーブルも割り当てられていました。
助成金全体の3分の1はどこに行ったのかよく分かりません。空調設備も散々時間をかけて設置したのですが、室温を下げられない代物でしたよ」
―そういう状況はご承知の上だったのですよね?
「ですから、私たちは早めに準備をして、すでにユニークな装置を100万ドルで購入済みです。
一つの研究室にこれだけの装置が備わっているところは日本にもアメリカにもなく、たとえば、このクラスの共焦点顕微鏡は京都では大学に一つあるきりですが、私たちはそれを研究室専用に入手できました」
―帰国の動機は?
「京都大学では窮屈になって活動の場を拡げたくなり、母校で働きたいと思っていました。私はここの院生や学生が大好きです。とても呑み込みが早い。
しかし、若い研究者たちにも難題があります。教え子の一人が大学院へ進むかフィットネスのインストラクターになるか迷っています。院生になれば私たちは彼女に助成金の中から月3万ルーブル支払うことができますが、助成は2年限りなので、その先どうするか見通しが立たないのです」
―あなたの研究室で行われる研究は?
「組織工学です。私たちは心臓の損傷部分に替わり得る人工組織を創りたいと思っています。
今もっとも重要な課題は、ポリマー製ナノファイバーで立体の枠組を作り、そこで心臓の細胞を培養し、それらが様々な作用にどう反応するかを調べることです。そうしたモデルは新薬の開発に欠かせません。
ゆくゆくは、人体に適合する移植組織を培養するため、患者本人の皮膚などの細胞の心臓細胞へのリプログラミングに取り組みたいと思っています」
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