パーヴェル・リシン撮影/ロシア通信
ロシア西部、シベリア、カフカスに暮らすジプシーには、約20の民族グループがある。ロシア連邦ジプシー民族・文化自治団体のナデジダ・デメトル理事によると、ジプシーの25%はスタヴロポリ地方、クラスノダル地方、ロストフ州に暮らしている。
ソ連邦最高会議幹部会令「漂泊生活を送るジプシーの労働への参加について」が発令された1956年から、ジプシーは定住民になっており、流浪民と呼べるのはウクライナ西部のザカルパッチャ州、ウズベキスタン、その他旧ソ連共和国から出稼ぎに来ているジプシーだけである。
ジプシーに対する警戒心
ロシア人はジプシーを警戒する。ロシアの世論調査機関「レバダ・センター」が2005年に行った調査によると、回答者の20%がジプシーに不信感や恐怖心を抱いており、31%がいら立ちや反感を感じている。2013年の調査では国内のジプシーが減ることを32%が望み、2014年7月の調査では23%が望んでいる。望む人は減少しているものの、依然として数字は高い。
世論に影響をおよぼしているのは実体験や噂話である。
イヴァノヴォ市のオレグ・ヴィクトロフさんは、ジプシーに恐怖心を持っているわけではないが、かかわることには消極的だ。「ジプシーの法と犯罪の境界はあいまい。数年前、列車に乗ろうと急いでいたら、ジプシーのかわいそうな少女がいたから、硬貨をあげた。そしたらその母親がお礼に占いをして、災難から守る祈祷をしてくれた。結果的に母親にもたくさんのお金を払わなくてはならなくなった。ジプシーは催眠術というより、心理的作用をうまく利用していた」
イヴァノヴォ市のジプシーは主に女性とその子ども。15年ほど市内唯一の鉄道駅でたかりをしていた。今はそれが変化し、ガジェットなどの販売を始めたという。だが市民の姿勢は変わらない。「ジプシーを避けて通るようにしている」とヴィクトロフさん。
より深刻な問題が発生した例もある。シベリアのノボシビルスク州の小さな町では、ジプシーに麻薬密売の疑いが浮上し、それを不満に思った者がジプシーの複数の家に放火するという事件が起きた。
パーヴェル・リシン撮影/ロシア通信
ジプシーに犯罪を犯す傾向があるという意見に誇張があると考えるのは、ジプシー文化の専門家ニコライ・ベッソノフ氏。「春に”非公式な”情報が報道された。ロシアでは男性受刑者の15%、女性受刑者の60%がジプシーだというもの。しかしながら、実際の受刑者の人数からこの割合で計算してみると、ジプシーの受刑者の人数は、ロシア国内のジプシーの大人の人口を上回ることになる」
ロシア連邦刑執行庁広報部は、ロシアNOWの取材に対し、民族的な属性に関する統計はないものの、15%と60%という数字は明らかに多いと話した。
ただ、ジプシーによる犯罪の問題、具体的には窃盗と麻薬密売の問題は、実際に存在している。「麻薬密売人の割合は、ロシア人社会よりもジプシー社会の方が高い。ただし、麻薬市場でジプシーが占める割合は5%にすぎない」とベッソノフ氏。
ジプシーには2つの大きな問題があるという。それは国内でジプシーに対する悪いイメージができあがっていること、そしてジプシーがそれに対して何ら行動を起こさないこと。「ジプシーは陰謀者みたいなふるまいをやめるべきだし、マスメディアは偏った報道をやめるべき」とベッソノフ氏。
まじめな人や無職の人
スターリン政権時代、ジプシーはシベリアに流刑されていたため、自分の民族的な属性を隠すようになったと、ベッソノフ氏は説明する。「医師、エンジニア、学生など、いわゆるジプシーの知識層があらわれるようになった。だが社会の認識において、このような人々は存在していない。ジプシーは伝統的なロシアの姓を名乗り、ロシアの生活様式で暮らし、出自を隠している。それでも、現代のジプシーの教育は簡単な問題ではない。例えば、ルーマニア出身のカルデラシュ系ジプシーは、ロシアで非常に孤立しており、小学校から脱落するケースがとても多い。その結果、ロシア人社会よりもジプシー社会の高学歴が少なくなってしまう」
ロシア連邦ジプシー民族・文化自治団体は2013年、「ジプシーのロシア社会順応手段としての教育」プロジェクトで、大統領補助金を得ることができた。
ベッソノフ氏によると、安い賃金の仕事に就くことも、ジプシーにとっては非常に困難だという。「そのため、子どもを食べさせるという切迫した問題に直面する。解決方法はさまざま。小物を売ったり、金属屑を集めたり、内職したりしてお金を稼いでる家庭が多い。占いで稼いでるところもある」
ロシアのジプシーの問題解決は、包括的なものであるべきだという。それはジプシーの貧しい家族の支援、子どもの教育、ジプシーに対するロシア人社会の肯定的なイメージづくりなどを目指す、柔軟な社会政策だ。
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