ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による訪日が予定される中、ロシアは「バル」と「バスティオン」のミサイルシステム (NATOのコード名ではそれぞれ「センナイト」と「ストゥージ」) をクリル列島に配備した。
12月15日に山口県で予定されているプーチン大統領と安倍首相の会談のわずか数週間前となる11月22日に地対艦ミサイルユニットが配備されたことは、解決不可能とも見える領土問題をめぐる何らかの「打開策」の合意に向けた両国の最近の取り組みに、悪影響を及ぼすとみられている。
緊張緩和のために言及される可能性がある議論のひとつは、この兵器の性能に関するものだ。しかしそれには留意すべき点が一つある。
X-35地対艦ミサイルが装備されたバル・ミサイルシステムの射程範囲は120キロ (75マイル) である。しかしバスティオン・システムには超音速の「オーニクス」ミサイルが装備されており、これは対艦攻撃に用いるだけでなく、600キロの範囲内にある地上の標的も破壊することができるものだ。そのため、これは防衛用だけでなく、攻撃用の兵器としても機能するわけだ。
状況を概観すると、バルとバスティオンの配備をきっかけに多数の神経質なコメントがなされた。これが予定される交渉の結果に影響を及ぼさないとしても、両首脳の周囲の雰囲気に悪影響を及ぼすことは必至だ。
ロシア戦略研究所で軍事政策と経済部門を統括するイワン・コノヴァーロフ氏は、クリル列島での軍事力強化について大騒ぎしても意味がないと主張する。しかし、同氏は背後に「軍事力の誇示」が意図されているらしいとも付け加える。
「ミサイルシステムの展開は、2008年に始まったロシア軍改革の重要な一環です。 あまりにも長い間、軍事インフラと再軍備の面で極東地域がないがしろにされてきました。 ですからこの配備は前々からの懸案だったのです」
「現在の軍事力強化はかなり前から計画されていたものです。 これは、ロシア最西端に位置するバルト海の飛び領土、カリーニングラード領地で行われている軍事力の強化・改善と同じものです。私なら、シリアで展開された結果、同地域全体における軍事力の戦略的バランスを完全に一変させたS-400長距離対空ミサイルシステムが配備される可能性を否定しません」
- バルとバスティオン・ミサイルシステムの展開に関する決定は明らかにかなり前に下されたものですが、今回のこの出来事は、何らかの妥協案での合意に達するのではないかという期待が膨らむロシア大統領の訪日の準備と重なっています。クリル列島上の軍事力強化を実施するタイミングとしては不適切ではありませんか?
「確かにこの動きはかなり前から計画されたものです。 しかし、偶然の出来事は地政学では稀です。 私の見解では、これは明らかに政治的意志の表明であると共に、一種の軍事力の誇示でもあります。
- しかし展開のタイミングとしてはむしろ不適切であるように見受けられます。
「私はそうは思いません。二国間関係には改善の兆しがありますし、正しい方向に動いています。 それに、この地域では中国の自己主張がより強まってきています。 ロシアは「アジアへの基軸転換」政策を実施しており、その足場固めをしているのです。 トランプ大統領の視点に基づくアメリカは、日本を守るために余分な義務を請け負うことに消極的なようです。 このような状況下では、係争中の南クリル列島に関して妥協を模索しているのであれば、日本はより実利的に行動するでしょう。
「ある意味では、日露関係ははどん底の瀬戸際ではなく、急坂を登る途上にあるため、バルとバスティオン配備のタイミングは適切なのです。しかし、極東では一定レベルの鋭敏さが必要です。それは実に重要なのです」
表面上は、ミサイル配備が「軍事力の誇示」と見受けられるとイワン・コノヴァーロフ氏が認めたことに注目する価値がある。これは意図的に駆け引きのリスクを高めることを意図しているのであろうか? プーチン大統領が最近表明した姿勢 (「我々は領土を交換条件としない」) をロシアがいつか放棄する可能性について、いかなる疑念も払拭するためのものなのだろうか?
学者でロシアの元第一外務次官のフョードル・シェロフ=コヴェデャエフ氏は、これは単なる偶然であるという見解を示しており、上記の見方を疑問視している。かなり前に公表されたバルとバスティオンの配備は、今年春に詳細に報道と分析の対象とされている。それに最新のニュース性はない。
「私は、これがメッセージであり、日本がその対象であるとは思いません。 日本政府よりも、アメリカのドナルド・トランプ次期大統領率いる新政権の方が、この動きを非友好的と解釈する可能性が高いのです。結局は、それがプーチン大統領の訪日に悪影響を与えることはないと感じています」しかし陰謀説の支持者なら、ロシアで禁止されている、シリア国内のイスラム国のテロリストと闘うロシアと「パートナーシップ」を組むべきかをめぐり対立している、米国務省と国防総省との間の水面下の駆け引きを引き合いに出して、自らが抱く幻想をさらに拡げるであろう。これまでに前例のない対立する見解の表れとして、ジョン・ケリー氏とアシュトン・カーター氏は9月に口論を交わした。
- 南クリル諸島の軍事力強化は、日本との領土問題に対する潜在的な解決策に対して不満を感じているロシア軍による妨害行為を表している可能性はあるのか?
「なさそうです。 ロシアでは、外務省と国防省の思考が一致しており、行動の歩調も揃っています。 セルゲイ・ラブロフ外相とセルゲイ・ショイグ国防相の関係には、ケリー=カーター関係と共通するところは一切ありません」。シェロフ・コヴェデャエフ氏は、ロシアNOWに対してこのように語った。
2015年は、セルゲイ・ラブロフ外相と日本の岸田文雄外相の間で激しい交渉が繰り広げられた点が顕著だった。両外相の駆け引きは、モスクワが容認不可能とみなす赤線を引いたことで頂点に達した。すなわち、クリル列島の領有権は「交渉の余地なし」というものだ。ラブロフ外相は、日本が第二次世界大戦の最終的な結果を認めなければならないという考えを繰り返した。
しかし、さまざまな情報源によれば、この「赤線」は対話を維持するための両国による努力を否定するものではなかった。
それにもかかわらず、長い間待望され、2015年末に予定されていたウラジーミル・プーチン大統領の訪日は、またしても延期されたのである。ある意味でこれは、二国間の「戦闘状態にはないものの平和条約も未締結」という法的に宙に浮いた状況を持続させた。
二国間関係で両国がかかえる膨大な懸案にバルとバスティオン・ミサイルシステムに関する件が加わった現在、プーチン大統領の訪日の実体と建て前 (これは日本では重要なことだ) は一層不明瞭になっている。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。