解釈はモスクワ、ワシントンとブリュッセルの間で異なるかもしれないが、共通するセキュリティ脅威の普遍的な理解が生まれている。要するに、ロシアで禁止されているテロリスト組織「イスラム国 (IS)」の台頭は、ロシアと西側諸国を核拡散のリスクに再度注目させたのである。
シリアのバッシャール・アル=アサド大統領の運命は、ロシアと西側諸国の間で最も意見が対立した事柄の一つだった。クレムリンが同大統領を支持する一方で、西側諸国は彼の失脚を目指していた。しかし、シリアの化学兵器問題は両者を接近させた。モスクワとワシントンは、シリアの化学兵器の解体に共同で取り組むことで合意し、2013年にはアサド政権に化学兵器禁止条約を批准させた。
同様に、ロシアと米国は、核実験や核開発の試みに関するイランと北朝鮮に対する制裁内容について、合意に達することができた。両国が妥協に成功したもう一つの最近の例は、北朝鮮に対する制裁を様々な分野に拡大するという、2016年3月2日の国連安保理決議2270だ。
ロシアと西側諸国は、不拡散体制に対する主要な課題に対し、引き続き共通の理解を分かち合っている。ロシアも、米国も欧州も、核兵器を取得する国が新たに出現することを望んでいない。また、国家以外の主体が大量破壊兵器を獲得することは、もっと望んでいない。
モスクワ、ワシントンとブリュッセルは、非拡散 (少なくとも、最も深刻な場合) については協力関係を維持し、同時に、お互いの関係においては対立的な関係となることを受け入れているようだ。だが、これはロシアと西側諸国の対立が、国際的な非拡散の協力関係を弱体化させるという危険をはらんでいる。
前向きな協調の例は、誤解を招かないようでなければならない。結局のところ、ロシアと米国がイランと北朝鮮がもたらす課題をめぐり合意できるという事実は、非拡散の取り組みが通常通りに成功することを保証するわけではない。さらに、米露間の相互理解の欠如により、国際的な非拡散の取り組みが脱線してしまう可能性がある。これには4つの理由がある。
第一に、米露核軍縮パートナーシップは凍結状態にある。このことは、核保有国と非保有国の両者に懸念を生じさせている。これを武装解除ではなく武装強化の潮時だと解釈する国が出てくるかもしれない。
第二に、1987年に締結された中距離核戦力 (INF) 全廃条約の違反をめぐりお互いに繰り広げた非難は、ロシアと米国の責任や、その取り組みに対する両国の遵守、および効果的な交渉の実施能力について、国際社会の他の加盟国が疑問を投げかけることにつながった。
第三に、ロシアと西側諸国の政治的、軍事的、およびインテリジェンスのコミュニティ間でコミュニケーション経路が欠如しているために、拡散の脅威を検出し、非拡散のために協力する重要な手段が失われている。
第四に、ロシアと米国の一部の政治家や軍首脳部による攻撃的なレトリックは、他国のリーダーに対し悪い見本を示しており、彼らが同様のレトリックを展開し始める可能性がある。
ロシアと西側諸国の間で対立的なアプローチが台頭することで、非拡散体制の弱体化はさらに悪化するであろう。一方で、対立的なアプローチを協調的なアプローチに変えるために控えめな努力をしただけでも、非拡散体制に長期的なプラスの影響がもたらされるであろう。
*ピョートル・トピチカノフ氏は、核の不拡散政策を専門とするカーネギー国際平和財団モスクワ・センター所属のフェロー。
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