ロシアとトルコの関係の緊張が高まっている。トルコは先月30日、ロシア軍の爆撃機Su-34が同国の領空を侵犯したとして、再びロシアを非難。「対抗措置」として、戦闘態勢を橙色レベルまで引きあげたと発表した。これはトルコ空軍が司令部の承諾なしに、違反者に対して発砲できるものである。ロシア軍事司令部は、領空侵犯を完全否定している。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、困難な状況で悪化ゲームをするのが好きな政治家である。ゲームの際、賭け金を徐々につりあげていく。エルドアン大統領の最近の独立心の強さは、アメリカさえをもいら立たせるようになっている。それでも、ロシア軍機が撃墜された事件では、北大西洋条約機構(NATO)はトルコの立場との連携を表明した。同時に、双方に自制を呼びかけていた。
自制がなかった場合はどうなるのだろうか。トルコが、挑発を意図する場合も含めて、再びロシアの航空機を撃墜する可能性はあるのだろうか。
再度の撃墜は昨年11月に爆撃機Su-24を撃墜した時よりも難しくなる。シリアのラタキアのフメイミム空軍基地周辺にはすでに、地対空ミサイル・システム「S-400」が配備されている。このようにして、シリア北部にはトルコ空軍向けの事実上の「飛行禁止区域」が設定された。許可および予告なしにこの区域に侵入した者は、撃墜されるリスクを負う。
トルコ軍の下部組織が地上戦という形でシリア紛争への関与を強めそうなことが、状況をさらに難しくしている。「地上」での軍事的関与の主な目的とは、対「イスラム国(IS)」戦というよりもむしろ、シリア北部でのクルド人民兵組織の台頭を最小限に抑えることのようである。「飛行禁止区域」が存在する状況で地上戦を行うことを、トルコは受け入れられるだろうか。それはないだろう。
シリア上空でのロシアとアメリカ空軍の協力は作戦当初から確立されていたが、ロシアとトルコ空軍の協力となると、Su-24撃墜事件以降、双方の接触は完全に途絶えている。したがって、軍事衝突の危険性は、たとえ偶発的であったとしても、何倍にも高まっているのである。
トルコはロシアとの対立において、当然のことながら、NATOの結束に期待している。だが、エルドアン大統領の危険なゲームのとらわれの身になるかもしれないのだから、NATO加盟国すべてが諸手を挙げて喜べるわけではない。エルドアン大統領の戦略的な目標は、アメリカや他の西側の同盟国の目標とは大きく異なる。トルコの特殊機関と政治家がISと「いちゃついている」こと、イスラム主義者との戦いにおけるクルド人の役割の受け止め方がトルコとアメリカで大きく違うことなど。
トルコはほぼ公然と欧州連合(EU)をゆすっている。EUがトルコに譲歩しなければ、数十万人の難民をヨーロッパに流せるぞと。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がトルコに約束した、トルコにシリア難民をとどめるための30億ユーロ(約3900億円)の支援も少ないと考えている。ちなみにトルコには現在、難民が少なくとも200万人いる。メルケル首相はさらに、トルコのEU加盟交渉を再開し、年内にもビザなし制度を設けることもほのめかしている。多数の難民が留まっている、人口8000万人の巨大なイスラム教の国トルコとのビザなし制度は、まさにEUが今“夢見ている”ことだ。
エジプト上空でロシアの旅客機に対するテロ攻撃が行われたことは記憶に新しいが、ロシアの特殊機関の消息筋は最近、テロの痕跡がトルコに続いていると話した。具体的には、テロ組織「灰色の狼」である(この組織はヨーロッパでもテロ組織と認定されている)。
このようにして、今のところ非公式ではあるが、国際的なテロリストを少なくともかくまっているという非難が、トルコに向けられた。これに新たな証拠が浮上した場合、エルドアン大統領の西側における立場はさらに低くなる。
これらの要因が必ずしも、トルコ軍に頼った軍事作戦を含む、今後の危険な作戦をエルドアン大統領に思いとどまらせるとは限らない。かといって、これはロシア空軍がトルコの脅威に怯え、シリアで荷物をまとめて家に帰ることも意味しない。ロシア空軍はまだ作業を終えていない。さらに、プーチン大統領は、圧力に屈する政治家の中には入っていない。
ゲオルギイ・ボフト―政治学者、外交防衛政策会議メンバー
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