躍進!ロシアの「赤い魚」

=PhotoXpress
 ロシアにおける魚の養殖ビジネスは概して不振である。しかし幸福な例外もある。ロシア北部の小さなカレリア共和国が、地元の企業家の尽力により、驚くべき速度で、マスの生産量を増大させている。サケやマスはロシア人が最も好む魚だ。

 ロシアで最も愛されている魚とくれば、一も二もなくサケ・マスである。単に「赤い魚」とも呼ばれるこれらの魚のない宴席は、真に良いものとは決して言われない。しかし、ノルウェーやスコットランドで養殖される一番貴重な品種のサケ・マスが、ロシア人に届かなくなってしまった。ルーブル安と、食料品を対象とする対露制裁のためだ。

 しかし、おいしい魚の品不足という状況を、逆手にとった生産者がいる。今日では、ロシア北方のカレリア共和国で生産される「赤い魚」は、国内の総生産量の4分の3を占めるに至っている。特にカレリアのマスは質の高さで際立っている。

 

新開拓の領域

 先日パリで開かれた食品見本市「SIAL2016」で、カレリア出身の謙虚な企業家ニコライ・フェドレンコ氏は真の「勝利」を収めた。出展したマスが一度に3枚の金メダルを獲得したのだ。イベントの参加者や来客たちも、その品質と繊細な味を高く評価した。しかし成功は降って湧いたものではない。30年にわたる辛苦の賜物だ。少年時代から釣りが大好きだったフェドレンコ氏。ペレストロイカ時代にはソ連初の漁業会社の創設者となった。「魚を『捕る』のでなく『養殖する』ことをずっと夢見ていた。のち市当局から5年の期限で湖をレンタルし、そこへ魚を放った。そうして事業が始まったんだ」とフェドレンコ氏。

 今日カレリアにはおよそ50のマス養殖業者があり、1000人あまりがそこで働いている。2013年には2万3000トンの魚が養殖された。フィンランドにおけるマスの生産量を上回る数字だ。

 カレリアの漁業ビジネスが成功したわけは、何といっても、そこで捕れるマスが、よそで捕れるものよりずっとおいしいことだ。「秘訣は北方の気候条件にある。カレリアの湖水はめったに高い温度にならない。マスというのは気紛れな魚で、彼らがまともな食生活を送るには、水温が19度を超えないことが必要になる。それより暑いと食べなくなり、体重が減り、色はあせ、味が落ちる。 また、当地の環境は、今も昔もロシア随一に良好だ。きれいな湖水ときれいな空気がマスの品質に直接影響を与えるのだ」とは、カレリア・マス漁業組合議長ヴィターリイ・アルタモノフ氏の弁。

 新たな領域が開拓されたことにカレリアの教育機関も呼応した。ペトロザヴォーツク(カレリア共和国首都)国立大学が「マス養殖」という新たな専門分野を担う青年の育成を始めて、早や数年。ここで学ぶ学生たちは、通例、在学中にもう仕事を見つけ、卒業試験を終えるとすぐに、地域平均の1.5-2倍の初任給で働き始める。

 

制裁を追い風に

 さらなる生産拡大の前に立ちはだかる唯一の障害は、環境問題だ。マス生産は養殖場となる湖にとって相当「汚い」のである。カレリアは数万もの湖沼を擁する地域であるが、環境に深刻な被害を出さずに魚の養殖を行えるような条件を備えたものは、うちの数百だけである。そこでカレリアのマス養殖業界は、ノルウェーの経験に学び、「赤い魚」(大西洋サケ、サケ含む)の養殖を、白海水域で行うことを考えている。

 マス養殖業者のウラジーミル・ホチン氏は言う。「現在マスの養殖が行われている湖には、これ以上の発展の余地はほとんど無い。一方、白海という可能性は、まだほとんど手付かずだ」

 ホチン氏はすでに2003年に、白海水域で「赤い魚」の養殖を試している。その時点ではまだ、カレリアおよびロシアへのサケ・マスの最大の供給者はノルウェーだった。ホチン氏の指導の下、カレリアの漁師たちは、ノルウェーとの競合に挑んだ。結果は、残念ながら、敗北。ノルウェー産魚が不当に安く売買されていたことと、白海の気候条件の厳しさ、ならびに、輸送インフラの不備が原因だ。しかし、ノルウェーの魚に対する食料品制裁の導入で、状況は根本的に変わった。ホチン氏は来年から、白海における自身のプロジェクトを再始動させる意向だ。

はじまりは60年代

 カレリアはソビエト時代、既にマス養殖のパイオニアだった。それも、北西ヨーロッパ規模でのパイオニアだった。シャモゼルスク水産工場でマスの商業養殖が初めて行われたのは60年代末。そこで作られた基準指数こそがソビエトおよびフィンランドの専門家らによって商業養殖の確立に利用されたのだ。しかし、こうした学術的な成果がフィンランドではいち早く実地に適用されたのに対し、鈍重なソビエト経済は業界の発展にチャンスを与えることができなかった。 ペレストロイカ後の1990年代初頭、カレリア共和国におけるマス養殖の発展に多大な支援を行ったのは、ちょうどこのフィンランドなのである。

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