ロシア・スポーツ界の「人魚姫」

EPA撮影
 五輪金メダルを3個手にしている、シンクロナイズドスイミングのナタリヤ・イシチェンコ(30)が、息子を出産した後、競技生活に復活した。目指すはリオ五輪!

 ナタリヤ・イシチェンコは、ほっそりとした上品な女性だが、金メダリストならではの気質の持ち主だ。5歳の時にシンクロナイズドスイミングを選び、自分の人生を定め、勝利への道を進み始めた。五輪出場の夢を追いかけながら、14歳の時に故郷のカリーニングラードから、有名な「オリンピック水泳センター」のあるモスクワへと引っ越した。2002年、ロシア代表に入った。厳しい練習、高熱での強行出場など、大変であったが、25年のシンクロナイズドスイミング生活で、自分の選択を悔やんだことなど一度もなかった。

 水中は愛する環境であり、すべてのメダルはその証明である。これまで、五輪で金メダル3個、世界選手権で金メダル19個、欧州選手権で金メダル12個を獲得している。最近では、5月の欧州選手権で金メダルを3個手にした。今は五輪のデュエットとチームへの出場を目指して練習している。

 

厳しい競争の中の結束

 五輪への野望を抱きつつも、メダルを何個獲得しようかといった計算はしない。1日10~12時間練習しており、2015年のカザン世界水泳前のように、理想の演技を目指してデュエットのテクニカル・ルーティンの通しを120回行う用意もある。本人が誇りを持つのは、この練習の数字である。マスコミがデュエットのパートナーであるスヴェトラーナ・ロマシナのメダル数と比較して(ロマシナは世界選手権の金メダルが一つ少ない)、2人を「衝突」させようとしても、しっかりと答える。「スヴェトラーナはこれっぽちも私を妬んでないと断言できる。むしろ互いに支えあっているわ」

 近年、圧倒的な強さを見せているロシアのシンクロ選手団は、特殊な集団である。代表の競争は激しいが、団結心と結束はそれ以上に強い。この要素抜きに、高いレベルのテクニカルは成功しない。「普段は皆全然違うかもしれないし、誰もが最高の親友というわけではないけれど、同じ夢に向かって活動しているから、個人の資質は二の次になる」とイシチェンコ。

 

恵まれた体格

 イシチェンコの持って生まれた優位性について、多くの人が話し、またうらやんでいる。例えば、身長1メートル77センチで、足が長い。このサイズではエレメントをこなしにくくなるが、動きは伸び伸びとし、演技が映える。イシチェンコの肺活量は約6500で、平均の3倍ほどある。息を3分半止めることができる。

 恵まれた体格と磨かれた技術のおかげで、優れたソロ選手になっている。ソロは全力を出し切らなければいけない。「1人だと、自分に注目が集まる」と話す。同時に、1人の演技では、もっと自由に表現できるようになるという。「デュエットでは相手とぴったり合っていること、技術が大切で、感情を抑えなければいけない。ソロなら即興演技を少し加えて、その瞬間に感じた動きを見せることができる」とイシチェンコ。残念ながら、五輪ではそのような演技を見れない。ソロは種目に含まれていないからだ。

 

母性が産んだ可能性

 イシチェンコは産休後の2014年に復帰。自分の実力を再び証明することを余儀なくされた。過去にどんなに活躍した選手でも、タチヤナ・ポクロフスカヤ主任コーチは、優遇しない。イシチェンコは休んで自分の長所を失うことはなく、むしろ成長した。「母性がたくさんの新しい感覚を私の中にもたらした。これによって、プログラムでもっとイメージを伝えられるようになった」と、イシチェンコはカザン世界水泳で話していた。カザン世界水泳は復帰後の最初の大きな大会だった。

 ライバルも復帰を喜んでいる。「イシチェンコはすごい。とても美しい肉体。出産後に復帰したことは、シンクロにとってとても良いこと。素晴らしいソリストがいなくて、物足りなかった。アーティスティックな部分をもっと向上できるだろうし、まだまだ成長できると思う」と、フランスのヴィルジニー・デデューは賛美の言葉を惜しまなかった。

 今は自分をスポーツ選手というより、母親と感じている、とイシチェンコは話した。だがスポーツ界は今のところ、イシチェンコを離さない。3度目の五輪となるリオ五輪では、ロマシナとともに、アナスタシヤ・ダヴィドワの記録を抜くかもしれない。ダヴィドワは5個の五輪金メダルを獲得した、世界のシンクロ界で五輪優勝回数が最多の元選手である。イシチェンコはリオ五輪でどんな演技を見せてくれるのだろうか。

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