作家のアンナ・スタロビネツ=
アレクセイ・ダニチェフ撮影/ロシア通信英文学やイタリア文学に比べて、ロシア文学はとても若い。世俗的な内容をうたう詩人や作家がロシアに出現したのはやっと18世紀になってからのことだ。カノンの出現は19世紀を待たねばならない。シェイクスピアやダンテの時代と比べれば、あまりにも短い期間だ。
ところが外国人には、ロシアの古典文学は非常に古いと思われているらしい。本物の長編小説を書けるのはトルストイやドストエフスキー、さもなくばソルジェニーツィンのような老人だけだ、と。44歳で世を去り、主要著作が30そこそこで書かれたチェーホフさえ、いい年の年配者のように思われている。ロシアの天才詩人、アレクサンドル・プーシキンにいたっては、37歳で落命している。プーシキンが外国でほとんど知られていないのは、まさかそのためなのだろうか?たしかに彼だけは、間違っても老人には見えない。
しかし21世紀、そうしたテコでも動かないように見えた事情は変わりつつある。ロシアに本当に若い作家たちが出現しだした。それはどのような人々か?
ソビエト時代、「若い作家」といえば、それは「新人」のことだった。ゆえに、40歳であれ、どころか50歳であれ、「若い」作家と呼ぶことはできた。アンダーグラウンドを代表する作家だったエヴゲーニイ・ポポフ(やはり白髭をはやしながら「若い」作家と呼ばれていた)はアイロニカルにも、「著書が刊行されるまでは、作家は『若い作家』のままだ!」とのたまった。今や、若い作家は現実に若い。クセニヤ・ブクシャ、セルゲイ・シャルグノフ、アンナ・スタロビネツ、アリサ・ガニエワは30歳になるまでに成功と知名を獲得した。ザハール・プリレピンはやや遅れてキャリアをスタートさせ、最初の図書の出版は、作家が30歳になったときだった。しかし、それには客観的な事情があった。彼はチェチェンで従軍し、その後も様々な重労働につき、家族を養っていた。いま40代に入った彼は、古典作家の地位を獲得し、著作集を刊行するに至っている。
ロシアは非常な一極集中の国だ。広大な国土面積を持ちながら、人文関連のあらゆるイベントの90%がモスクワおよびサンクトペテルブルクで催されている。そして5%がシベリアの首都、ノヴォシビルスクで、といったところだ。つい最近まで、多少なりともクリエイティブでアクティブな人種は(作家に限らず)、モスクワに来ることがむしろ自然であった。あたかも、高校卒業後に大学に進学することが普通であるように。そうした状況は2010年代に一変した。それがインターネットなどの通信の発達によるものなのか、それとも「作家は生まれた土地に根付かなければならない」という意識の芽生えによるものなのかは定かではない。しかし、彼らの多くが、もはや「首都制圧」を志向していない。プリレピンもヴォルガ河畔の静かな村に瀟洒な一家を構えている。
最近まで、<若い作家は自らの抱える「若い」問題しか取り扱えない>ということは自明の理であった。イワン・ツルゲーネフよろしく初恋を語るか、トルストイの『幼年時代』『少年時代』『青年時代』三部作よろしく世界における自分の位置を探求するかに、主題は限られている、と。今や、デビュー一作目は、どのようなものでもあり得る。たとえば、タタールの村からシベリアへ流刑された祖母の伝記を長編にしたグゼリ・ヤヒナのように、家族の歴史を描いたもの。ブクシャ(デビューは17歳!)のように、18世紀の歴史をもとにしたもの。はたまた、スタロビネツのような神秘主義小説、ドミトリー・グルホフスキーのような終末もの、果ては、シャルグノフやプリレピンのような政治ものまで。この最後の二人に関しては、そのデビュー作は、政治参加の姿勢を示していたばかりか、政界のエリートに厳しく対峙するものであった。そのことは彼らの知名度を高めこそすれ、損ねることはなかった。
今日、若い作家たちは、世界に自分を知らしめるチャンスにより恵まれている。ソ連時代は、美学的、イデオロギー的に硬化したお歴々が実権を握る、大部な文芸誌を通じてしか、作家同盟(プロとして文学を仕事にするチャンスを与える機関)に入ることは出来なかった。ところが今日は、若い作家は自ら文芸雑誌を創刊することが出来る。カーチャ・モロゾワや批評家のイーゴリ・グリン(ともに30歳以下)のように。両名は紙媒体の雑誌「ノソローグ(犀)」を創刊した。今や作家同盟がその所有する「文化会館」ともども、作家に当たり前な労働環境を保障できる唯一の機関であるという状況はなくなった。現代の新進作家には様々な奨励金、基金、支援プログラムがある。35歳以下の作家のための「デビュー」賞もある。作家稼業が茨の道なのは古今を通じて変わらない。しかし21世紀も引き続き、作家は必要とされている。紙媒体であれインターネットであれ、分厚い書物であれツイッターであれ、新しい思想が生み出されねばならない。それは彼ら、21世紀の若い作家たちにしか出来ない仕事だ。
ミハイル・ヴィゼリ
「ロシア文学年」公式ポータルサイト編集者
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