カザンの地下鉄を有名にしているものとは?

観光・自然
アンナ・ソロキナ
 タタールの文化や伝統の世界に「潜っていく」ことは、文字通りの意味で可能だ。ただ地下鉄へ下りて行きさえすればいいのだから。

 カザンの地下鉄では、伝説のドラゴン「ジラント(ユラン)」や天空を駆ける馬を見ることもできるし、簡単なタタール語を覚えることもできる。

1. ロシアで最も新しい地下鉄

 タタールスタン共和国の首都カザンの地下鉄は、あまり大きくはないものの、その特色豊かな魅力が目を引く。ロシアで運行されている7つの地下鉄のうちの一つで、他にはモスクワ、サンクトペテルブルク、ニジュニ・ノヴゴロド、サマラ、ノヴォシビルスク、エカテリンブルクの6都市に地下鉄がある。今のところ、ソ連崩壊以後に開業した唯一の地下鉄だ。

 カザンでの地下鉄建設は1980年代末から計画されていた。実際の建設が開始されたのは経済危機に苦しむ1990年代に入ってからだったが、困難な状況にもかかわず建設は完了した。

 地下鉄はカザン創建1000年に合わせて2005年に開業された。

 現在、総延長17km1路線からなり、計11駅が設置されていて、一日あたり10万人の利用者がいる。2020年には2本目の路線の建設が始まっており、計画では4駅からなる総延長5.7kmの新路線で、2027年に開業予定だ。

2. 3ヶ国語でのアナウンス

 ロシアの多くの地下鉄駅ではロシア語と英語によるアナウンスがされている。だがカザンでは、その2ヶ国語に加えてタタール語のアナウンスも聞くことができる。タタールスタン共和国ではロシア語と並んでタタール語が公用語の地位を持っているのだ。タタール語のアナウンスは女性の声で、ロシア語と英語は男性の声となっている。

 2021年にはロシアの諸民族言語をテーマにしたラッピング車両も運行され、これは、タタール語、マリ語、チュヴァシ語、モルドヴァ語、ウドムルト語のいくつかのフレーズを覚えることができるものだった。

3. 地下のクレムリン

 白亜のクレムリン、それがカザンの代表的な観光地の一つだ。そしてそれは地上だけではなく、地下鉄でも見ることができる。カザン・クレムリンのほど近くにある「クレムリョーフスカヤ」駅は、まさに地下宮殿という言葉がふさわしい。その壁はクレムリンの積み上げられた煉瓦を思わせるもので、プラットフォームにはクレムリンの望楼やモスク、そしてシュユムビケの「斜塔」のミニチュアが設置されている。

4. 地下鉄に息づく東方の伝説

 「クレムリョーフスカヤ」駅の天井は、伝説のドラゴン「ジラント(ユラン)」が描かれたオリエントの意匠で彩られている。「ジラント」はカザンのシンボルで、遠くカザン・ハン国の時代から今に伝わるものだ。また、このドラゴンの像が地下鉄駅への入り口を示す「M」の文字のすぐ側に設置されていて、まさに駅の入り口を「守る」存在となっている。

 ちなみに、2本目の路線には「ジラント」と名付けられる駅があり、計画では、そのデザインはドラゴンの鱗をモチーフとしたものになるようだ。

 別の建設中の「トゥルパル」駅は、多くのテュルクの伝説にその姿が見られる翼を持つ天馬にちなんで名付けられている。

 伝説からとったモチーフは、タタールの詩人ガブドゥリィ・トゥカヤにちなんで名付けられた「プローシャチ・トゥカヤ(トゥカヤ広場)」駅でも目にすることができる。白と緑の大理石で仕上げられ、タタールの物語に登場する英雄たちが描かれている。

5. 運行間隔を表示する時計はない

 カザン地下鉄は、ロシアで唯一、電車が発車するたびに次の電車までの間隔が表示される時計がない地下鉄だ。電車の運行間隔はラッシュアワーでも5−6分となっている。

6. 自動化された地下鉄

 その規模はあまり大きくないものの、カザン地下鉄はとても現代的だ。人間が操作することなく運行が可能な自動運転システムが採用されている。ではあるが、運転士は必ず乗車していて、自動運転システムを監督している。さらに、カザンでは完全な無人運転の試験運行も計画されている。

7. ジェトン(コイン型乗車券)の有効期間は1日だけ

 カザン地下鉄の運賃は、交通カードまたはクレジットカードで支払うことができる。また、内部にチップが埋め込まれた無接触型のスマート・ジェトンも利用できる。このようなジェトンの有効期限は1日だけだ。このハイテクジェトンの原価は運賃より高いので、運営会社は一人あたりのジェトン発行数を制限している。お土産に欲しい人向けには、チップの入っていない「プレゼント用」に販売されている色とりどりのジェトンがある。

新しい記事をお見逃しすることがないよう、SNSでぜひフォローをお願いします!>>