人はなぜ極地砂漠に住むのか?

スピッツベルゲン島に位置するバレンツブルク

スピッツベルゲン島に位置するバレンツブルク

Mikhail Voskresensky/Sputnik
 厳しい条件の北極の砂漠地帯は北氷洋に浮かぶ島のほとんどとロシアの大陸部の海岸を網羅している。そしてそこには人々が暮らしている。

 ツンドラ地帯が終わるところから、極地砂漠―最北の生態系が始まる。南方と同じような果てしない砂、そして氷と雪が地平線まで広がる。「北極はいつも果てしなく遠く、秘密めいていて、冷たく、宇宙よりも危険なものに感じられた」と話すのは、2021年の夏に極地探検に参加したロシアの現代作家エヴゲーニー・グリシコヴェツ。「率直に言って、現実はわたしの想像を上回っていました。そこでは、太陽は沈まず、わたしたちの周りを回っています。それは世界の頂上なのです」。

 

雪のある冬、雪のない冬

チュコトカ半島に位置するビリングスの風景

 「9月から5月までは雪のある冬で、6月から8月までは雪のない冬です」と話すのは、チュコトカ半島ビリングスに住むイーゴリ・ペトレニャ。地元の学校で教頭として数ヶ月働いている。

 東シベリア海沿岸にあるビリングスに住む人の数は200人に満たない。住人たちは伝統産業に携わっているか、気象観測ステーションで働いている。行政の中心地であるぺヴェク市まではおよそ400キロ。周りには何もない。

ビリングスの風景

 この地域はもっとも生活に適さない場所とされている。雪が1年中融けず、気温は、夏にようやくプラスになるくらいである。極夜は3〜4ヶ月続き、夏になると白夜が訪れる。木や植物がなく、海に近いことから、風はまさに足元をすくう。

ビリングスの風景

 8月のもっとも暑いときでも10℃を上回ることはない。9月初旬、雪が降り始め、冬じゅう積もったままとなる。イーゴリは言う。「でも、わたしはここの気候は気に入ってます。わたしは暑いのが苦手なんです。ここはわたしの理想の気候です」。とはいえ、イーゴリは森が恋しいと打ち明けている。

 南の砂漠と北極の砂漠の共通点は、木や植物がない完全な平地であることだけでなく、空気が乾燥していること。極圏の方がより乾燥しているのだという。

ビリングスの風景

 極地砂漠の興味深い特徴の一つが、強力な静電気。「挨拶の握手をするだけで静電気が起きたり、USBメモリを手渡す時に、火花が散って、USBが燃えてしまうこともあるんです」とイーゴリ。「仕事場の椅子に座って、バッテリーやヒーターなどの金属に触れ、それからパソコンとマウスを使って仕事をします。それから洗面所に行き、両手を洗おうと水の下に手を入れると、静電気が起きます。毎回必ずこうなります」。北極に近いため、人は常に電気を含んだ状態なのかもしれませんとイーゴリ。

 

観光のための広々とした空間

 北極の砂漠地帯には、ノーヴァヤ・ゼムリャ、フランツ・ヨシフ諸島、ノヴォシビルスク島、そしてヤマル、タイムィル、ヤクーチヤ、チュコトカが含まれる。この地域には人が住む居住区は少ししかない。「大陸の」北極の砂漠地帯には、ビリングスの他、タイムィルのディクソン村(人口およそ500人強)、シュピツベルゲンのバレンツブルク(人口490人)、そして北極に多く眠る天然ガスや石油の採掘を行っている労働者の村などがある。北氷洋に浮かぶ島々には、軍事基地や極地ステーションがあり、専門家が働いている。

ゼムリャ・アレクサンドラ島に位置する「アルクチーチェスキー・トリリストニク」基地

 「アルクチーチェスキー・トリリストニク」と「セヴェルヌィ・クレヴェル」は、ゼムリャ・アレクサンドラ島とコテリヌィ島に位置するロシア最北の基地である。それぞれ、いくつかの建物からできているが、兵士たちがなんども外に出なくても良いよう、通路で繋がれている。

「セヴェルヌィ・クレヴェル」基地

 フランツ・ヨシフ諸島を構成するヘイス島には、ソ連時代から稼働する気象観測ステーションがある。ソ連時代には最大で400人が住んでいたが、現在はわずか5人となっている。

フランツ・ヨシフ諸島を構成するヘイス島の気象観測ステーション

 北極の砂漠地帯で遭遇しうる危険の一つは、食べ物を探して人間に近づいてくるシロクマである。この地帯は、到達が困難で危険な場所であるにも関わらず、多くの観光客を惹きつけている。フランス・ヨシフ諸島、ノーヴァヤ・ゼムリャ島のいくつかの島は国立公園「ルースカヤ・アルクチカ(ロシアの北極)」を構成している。

ヘイス島の気象観測ステーション

 北氷洋に浮かぶ島には、毎年、1,500人ほどの観光客がやってくる。ここでは極地の鳥類を観察したり、壮大な氷山やセイウチの繁殖地を見学したり、幻想的な北極の風景を堪能できる。この地帯には、ムールマンスクまたはアルハンゲリスクから砕氷船で到達することができる。1週間のツアーにかかる費用はかなり高価で、客室の料金は5,000ドル(およそ55万円)以上となっているが、ロマンを感じられる旅であることは間違いない。

ムルマンスク州のセヴェロモルスク港に到着する砕氷船

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