先史時代の動物の造形作品を作るロシアのパレオアーティスト

ワレンチン・ポポフとイノストランケビア

ワレンチン・ポポフとイノストランケビア

Delvesto Studio
 今から数百万年前、風変わりなリストロサウルスやイノストランケビアがこの国全土を闊歩していた。それがどのような風貌をしていたのかを、わたしたちは今、古生物を復元した造形作品のおかげで知ることができる。

 たとえば、リストロサウルス・ゲオルギについて何か聞いたことはあるだろうか?この愛らしい植物食性の動物は、25000年前に起こった地球規模の大量絶滅を生き延びた数少ない生物の一つである。

 一方、こちらはあまり知らない人も多いかもしれない。鋭い牙を持つ捕食者イノストランケビアである。絶滅するまで、ウラルの動物相にとって悪夢のような存在であり続けた。

 3億年前にペルミ地方に普通に棲息していた動物はこんな姿をしていた。これはエダフォサウルスである。一体その何が驚くべきことなのか知っているだろうか?実は、誰もこのエダフォサウルスも、リストロサウルスも、もちろんイノストランケビアも、二足歩行しているところを見たことがないのだが、今、わたしたちはそれを目にすることができるのである。それはすべてこの復元作品のおかげである。

 古生物造形作家のワレンチン・ポポフさんは、自身のスタジオ「デルヴェスト」で、きわめてリアルで、「エモーショナル」な絶滅生物の造形作品を制作している。それらの作品は科学に疎い人にとっても興味深いものである。

「復活した」生物

 ワレンチンさんは、「一つ一つの作品に魂を宿したいのです」と話す。ワレンチンさんは生物学が専門で、タンボフ国立大学を卒業したが、学術研究ではなく、視覚芸術に自身の生きる道を見出した。ワレンチンさんは、ロシアでもっとも有名な古生物復元造形スタジオ「デルヴェスト」のクリエーターである。

 古代人や古生物の復元作品なら何度か見たことがあるという人がいるかもしれないが、彼の作品はそのダイナミズムで人々を驚かせる。ソーシャルネットワーク上の彼のフォロワーたちからは、「まるで生きているみたい」、「今にも走り出しそう!」、「質感への注力が素晴らしい!」など、賞賛の声が止まない。

 ワレンチンさんが作品作りに使っている素材は主にシリコンだというが、すべては何を作るかによって変わるという。「たとえば、硬い鱗のある大きなトカゲを作るときには、硬い素材を使います。毛(通常は天然のもの)を付けないといけないときには、シリコンを使います。シリコンは皮膚を再現するのに最適で、それは写真を見ればよく分かります。

 最近、3Dモデリングを習得しつつあります。つまり、コンピュータ上で形を描き、それをプリントして、修正しながら作っていくという方法を計画しています」。ワレンチンさんは、多くの作品作りのために、別の作家に3Dモデリングの頭蓋骨を作製してもらっているのだという。

 「基本的にすべて独学で学びました。どうやって作ればいいのか自分で考えながら研究したのです。5年前に制作を始めたときには情報があまりなく、特別な授業を受けるのは費用がかかったのです」。

 「作品をより活き活きとしたものにするための秘訣がいくつかあります。人間の知覚にとって重要なのは、顔の表情、そして動きです。生物が横たわっていても、立ち上がっていても、躍動感があることが大切です」。

ペルム紀の謎

 「概して、わたしはさまざまな時代の生物を作っていますが、ペルム紀(3億〜25000年前)の動物相が特に好きです。その当時の動物というのはたくさんあるわけですが、人々はそれについてほとんど何も知りません。その動物相は恐竜よりはるか前に存在していたもので、とても興味深いものです」とワレンチンさんは話す。「ロシアではようやくパレオアートというものが発展しつつあります。わたしにとって重要なのは、ロシアの人々に、わたしたちの国の過去について、そしてさまざまな時代に棲息していた動物についてもっとよく知ってもらうことなのです」。

 ワレンチンさんはさらにこう語る。「わたしは常に、制作しようとするそれぞれの種について、文献を読んで勉強し、専門家にも話を聞くようにしています。もしかすると、何年かすれば、その生物のイメージが何らかの形でまた変わり、わたしたちにとって、今とは違う姿になるかもしれません。そうした例は、恐竜の復元作品を見てもたくさんあります。わたしたちは研究者たちの発見を注視し、それを追っています」。

現代人の祖先

 人類は、地球の歴史という観点から見れば、比較的、最近出現したものである。もっとも初期のヒト属であるホモ・ハビリス(ラテン語で「器用な人」)が登場したのは280万年前のこと。我々――つまり近代的な「ホモ・サピエンス」(ラテン語で「賢い人」)が出現したのはわずか30万年前である。歴史の基準で見れば一瞬といえるこの30万年の間に、人々はその外見でも行動でも大きく変化してきた。

 ネアンデルタール人はワレンチンさんが初めて作ったヒトの造形である。作品は実物の半分の大きさ(76センチ)になっているが、他の作品同様、そのイメージは細部にわたって考え抜かれている。

 「制作を準備している過程で、ネアンデルタール人は裁縫に長けていたことを知りました。ネアンデルタール人が住んでいた場所の大部分は、それがポルトガルであろうと、アルタイ地方であろうと、寒かったのです。加えて、ネアンデルタール人は氷河期に棲息していたことを忘れてはなりません。つまり、当然ながら、暖かくて丈夫な衣類がなければ、生きていけなかったのです」。

 ワレンチンさんはこの作品を制作するにあたり、人類学者のスタニスラフ・ドロブィシェフスキー氏に助言を求めた。そして、現代の北方民族の衣類に注目し、それを少し粗雑に作ればいいとのアドバイスを受けたのだという。

 ワレンチンさんの新作の一つが、個人コレクション用の「スンギルのヒト」。スンギルというのは、ウラジーミル市の街はずれを流れる小川の名前で、1950年代半ばに、ソ連の考古学者らが古代人の遺跡を発見した場所である。発掘調査は30年にわたって行われ、発掘物の研究は今も続けられている。

 こちらは3万年前のウラジーミルの人間の姿である。このウラジーミルの男は、トナカイやマンモスの狩猟を行っており、かなり浅黒い肌の色をしていた。現在のロシアの中央部では想像もつかないことである。ワレンチンさん曰く、「いつか、この人物の全身を復元するかもしれません」。

神話の生物たち

 ワレンチンさんは先史時代の生物だけでなく、科学的には何者か判明しないものも制作している。ベラルーシのおとぎ話をテーマにしたゴメリでの展覧会のために、ワレンチンさんはホフリク、リズン、バイという、神話の生物を作った。実際にはいずれも人々を怖がらせた存在であったが、作品は物思いに耽る穏やかなものに仕上がっている。

 言い伝えによれば、リズンは井戸の中に住んでいて、言うことを聞かない子どもを血が出るまで舐めたと言われている。

 一方、ホフリクは、小さな悪魔の座敷童で、疾風のように駆け回り、家の中をめちゃくちゃにする生き物。一言で言えば、ポルターガイストである。

 そしてバイは壁を這い、子どもたちに子守唄を聞かせて寝かしつけ、そのお礼に子どもたちの親から粥と牛乳をもらう。

 幻想的な写真撮影を行うため、ワレンチンさんはヒューマノイドやその他の地球外生物などを制作した。

 ちなみにワレンチンさんは空いた時間があると、手のひらサイズのお土産用の作品を作っているのだそうだ。写真に写っているのは、ラビドサウルス、エステメノスクス、イノストランケビア、スクトサウルスである。

作品はどこで見られるか?

 これまでにワレンチンさんはおよそ100点の先史時代の生物の作品を作っており、多くの展覧会で展示されてきた。

 スタジオ「デルヴェスト」の数々の作品は、モスクワ近郊の宇宙歴史博物館、ノヴォシビルスクの「地球の進化」センター、イルクーツクの動物ギャラリー、ヴャトカ古生物博物館で展示されている他、多数の個人コレクションにも収蔵されている。

 作品はロシアの各地域で開かれている古生物展覧会でも目にすることができる。現在、ワレンチンさんは、今度で3回目の開催となる自身の展覧会「パレオスフィア」の準備を進めているところだという。この展覧会では他の造形作家の作品も展示されることになっている。

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる