第76回カンヌ映画祭のレッドカーペットには多くのスターが姿を見せるが、そこに、ヴィヴィアン・ロリキートのゴージャスなドレスに身を包んだエヴゲニヤ・クズミナがいた。ロシア系のアメリカ人女優で、モデルで、映画スタジオミラマックスのプロデューサーでCEOのビル・ブロックの妻である。ネット上では、エヴゲニヤは若き頃のキム・ベイシンガーに似ていると言われているが、ここでは彼女が何者で、何をしているのか、詳しく見ていこう。
エヴゲニヤ・クズミナは1981年にモスクワで生まれた。父親のイーゴリ・クズミンは核物理学者で、チェルノブイリ原発事故の処理作業員(リクヴィダートル)で、事故調査のための政府委員会に勤務していたワレリー・レガソフの右腕であった。母親は専業主婦である。エヴゲニヤは幼い頃からスケートをし、スケート選手になることを考えたこともあったという。しかし、外見があまりにも美しすぎて、ファッションの世界が放っておくはずがなかった。
エヴゲニヤが13歳のとき、ロシアのファッション・デザイナー、ヴャチェスラフ・ザイツェフが彼女に大きな可能性を見出し、彼女を起用するようになった。こうして彼女のモデルとしてのキャリアがスタートしたのである。ファッションショーで活躍する以外にも、彼女はR Cコーラ、M&M、チョコレート「オクチャーブリ」などのコマーシャル、ロシアのテレビ番組「奇跡の場」、コメディ「エララーシ」などに出演するようになった。
まもなく、若きクズミナはチャック・ノリス主演の映画に出演することになった。しかし外国で予定されていた撮影に行くのにロシアから出国することができなかった。理由は、冷戦時代の国家機密に関わっていた父親の仕事のせいだったという。
しかし、エヴゲニヤは旧ソ連圏に長くは留まらなかった。2003年に父親が亡くなり、彼女は自分で生活費を稼ぎ、家族を支えるようになった。15歳のクズミナはパリのエージェンシーから声をかけられ、パリに移住、そこからめまいのするようなヨーロッパでのキャリアがスタートしたのである。
パリで、イヴ・サンローランのモデルオーディションに合格し、ナオミ・キャンベル、クラウディア・シファー、カーラ・ブルーニなどと共にショーに出演するようになる。
またジゼル・ブンチェン、イヴァンカ・トランプといったモデルとともに、Muglerにも出演。プラダ、ギャップ、ディオール、エルメス、カルティエ、アルマーニ、ロレアルなど、有名ブランドと契約を結ぶ。
21歳のとき、エヴゲニヤは映画監督のビル・ブロックと出会う。ビル・ブロックはそのとき55歳であった。エヴゲニヤは、「デイリー・メール」のインタビューの中で彼との出会について次のように語っている。「ケイティ・フォードの紹介で知り合ったんですが、彼は本当に魅力的で、映画産業について素晴らしい知識がありました。彼はかなり長い間、わたしを口説いていましたが、わたしが撮影をしていたハワイに来たときには、撮影クルー全員のお世話をしたり、みんなを食事に連れて行ったりしてくれました。そういう紳士なんです」。
2人はハリウッド・ヒルズに引っ越し、交際7年を経て、結婚した。結婚後、エヴゲニヤは苗字だけでなく、名前も改め、パーカー・ブロックと名乗るようになった。
夫婦には3人の子どもがいる。エヴゲニヤは、ファッション・モデル界で最高のフォード・モデルと契約を締結した直後に第一子を妊娠し、これでモデルとしてのキャリアは終わったこと(少なくとも長期休養)を意味した。しかし、エヴゲニヤは新たな展望を見出した。
2017年、ブロックは、ハーヴェイ・ワインシタインが創設した映画会社ミラマックスの最高経営者となり、妻をヒット映画に出演させるのに成功した。エヴゲニヤの映画での役どころはそのほとんどが端役であるが、それでも出演作は、「スパイ・シティ」、「Bad Moms」、そしてガイ・リッチーの「ジェントルメン」、「オペレーション・フォーチュン」など多数にのぼる。ちなみに、クズミナとベイシンガーは外見も似ているが、ビル・ブロックが、キャリアをスタートさせたときにプロデュースしている点も共通点となっている。
クズミナは映画に出演しつつ、コメディアンという新たな職業にも挑戦した。コメディ・ストア、ラーフ・ファクトリー、インプロフ、フラッパーズなどのクラブで、スタンドアップコメディとして、モデル業界をジョークにしている。すでにアメリカツアーを敢行し、2022年には独自のスタンドアップショー「モデルズ・オヴ・コメディー」を立ち上げた。ショーには他のトップモデルたちが出演している。
彼女の得意とする面白おかしい話は母親に関連したものである。母親はエヴゲニヤの住むアメリカに移住したが、ハリウッド映画からはかけ離れた生活をしているという。ある日、彼女はあわやジェイソン・ステイサムを殴ってしまいそうになったことがある。これについてエヴゲニヤは次のように話している。
「ジェイソンはわたしの夫の親友の1人。かなり前から一緒に不動産業をやっていて、隣に住んでいるんです。わたしが出産したときに、彼が家にやってきたのですが、もう暗くて、夫はいなかったんです。母はハリウッド俳優などまったく知らなくて、予告もなく現れた恐ろしい男性は誰かと思ったそうなんです。それで文字通り、彼に殴りかかろうと何か掴んだそうです。彼は悪者ではないと説明しなければなりませんでした」。
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