ステップに住む絶滅危惧種、サイガについての5つの事実

Valery Matytsin/TASS
 鼻に「コブ」のついた珍しい動物は、地球上に昔から生息しており、マンモスの時代にも生きていた。しかし、現在、自然界に残っているサイガは非常に少なくなっている。すべての原因は、その角を求める狩猟者たちのせいである。

 ロシアのカルムィク人には、あらゆる生物を守ってくれる「白いシャーマン」と呼ばれる地球の守護神についての伝説があるのだが、この守護神と共にいつも小さなサイガが描かれている。サイガは守護神のお気に入りの同伴者だからである。サイガは、顔にコブのような吻があり、雄には角がある偶蹄目サイズの動物である。

 

マンモスと同時代に生きた動物

 今、地球上には、マンモスと同時代に生きた動物はそれほど多く残っていない。残っているのは、ジャコウウシ、ヨーロッパバイソン、トナカイなど、大型の動物である。しかしそんな動物の中に含まれるのが、体重40キロ以下、植物上部の柔らかい部分を食べる、軽快で怖がりなサイガである。ステップ地帯にしか生息していないことから、ステップのアンテロープとも呼ばれる。

 サイガを飼い慣らそうという試みは見事に失敗に終わった。トナカイやバイソンと異なり、サイガは常に開かれた空間を移動する動物だからである。

 今から200年前、サイガはウクライナ西部のカルパチア山脈から中国に至るステップ地帯でしか目撃されたことがなかったが、人がどんどんこの空間に住むようになり、サイガの生息地は狭くなった。

 現在、サイガはロシア(カルムィク、アストラハン州)だけでなく、ステップ地帯がある旧ソ連共和国にも生息している。もっとも多いのがカザフスタン(80万頭)、ついでロシア(1万4,000頭)、モンゴル(およそ1万頭)、ウクライナ(5,000頭あるいはもっと少ない可能性もある)である。

奇跡をもたらす角

 サイガを何よりも苦しめたのは、その角を求める狩猟者たちである。伝統的な東洋の医学では、サイガの角は、頭痛から痙攣まで、さまざまな病の治療に有効とされていたのである。サイガの角は中国でも高い値がつけられ、今でも大きな需要がある。

 ソ連時代も現在も、密猟対策は講じられている。1920年代には密猟はほとんど行われなくなったが、1950年代に研究者らが個体数の調査を行ったところ、その数は100万強であった。その後、再び、サイガの狩猟が始まり、サイガが生息する国々は、国家レベルで保護するようになった。

 こうした対策が功を奏し、カザフスタンでは2003年には2万頭しかいなかったサイガが、2021年には80万頭に回復した。ロシアでは1990年にサイガを保護するための自然保護区「チョールヌィエ・ゼムリ」がカルムィクに創設された。これが現在、ロシアの主要なサイガの生息地となっている。

 自然保護区のタチアナ・コトロワ副代表は、「治安機関とともに密猟対策を行なっています。サイガはレッド・ブックに登録されており、密猟は実刑(2〜8年の禁錮刑または2万7,000ドル=およそ300万円の罰金)を伴う罪となっています」と話している。

 近年、自然保護区のサイガの個体数は数倍に増え、1万4,000頭になった。保護区の職員たちによれば、個体数が非常に増え、生息地も次第に地域の北部にまで広がっているという。

 しかし、新たな問題も出現した。地元の農家が、飼っている羊を管理している牧草地から外に出ないようにするため、電気柵を使うようになったのである。サイガは非常に俊敏で、そのスピードは最大で時速80キロにも達するため、移動の途中に電気柵があった場合、それに気づいて、避けることができず、多くの場合、悲しい結果に終わってしまう。

 タチアナさんは言う。「農家の方たちと話し合いをして、電気柵をつけないようお願いしています。サイガは、自然の中で、好きなように走り回らなければならない動物なのです」。

声を出すための鼻

 サイガの体は、ステップの大地で快適に過ごせるような作りになっている。群れになって、スピードを出して駆けるときに砂埃が舞っても、コブのような形をしたサイガの鼻は息が苦しくないようできている。吻の内側は毛が覆われていて、フィルターのような役目をしているのである。

 また吻があることによって、サイガは象のような声を上げることができる。とりわけこれは、発情期のときによく観察される。サイガは音を出しながら、鼻を伸ばす。この音は、体が大きければ大きいほど低い。つまりこの音を出すことで、自分が相手よりも大きくて強いということを示そうとしているのである。もっとも、実はサイガはもともととても臆病なのだが、雌に気に入ってもらうためならなんでもするのである。しかもサイガの雄はハーレム状態にあるため、何度もこのような試みを行わなければならない。

次の世代のために自分を犠牲にする

 サイガの発情期は11月から12月にかけて訪れる。その縄張りの中には雌の方が多いのだが、それでも雄は雌をかけて争いあう。先述の「声による」争いで、相手が諦めず、勝負がつかなかった場合、雄は角で戦う。勝った方は雌の大群全体を手に入れることになる。かつて大群は15〜20頭であったが、密猟によって雄が少なくなったため、今は30頭となっている。

 発情期にすっかり疲弊、消耗し、食べ物を摂ることすらできなくなる雄もいる。そしてそんな雄たちは、簡単に、自然界の唯一の敵であるステップのオオカミの餌食となってしまう。タチアナさんは言う。「その雄は、オオカミが妊娠した雌を襲わないよう、そして新たな世代となるサイガが生き残れるよう、自分を犠牲にするのです」。 

 ちなみに、生まれたサイガは、誕生して数時間後には走ることができるのだそうだ。

 

人を避ける

 サイガは怖がりな動物で、人間に恐怖を感じ、寄り付かない。そこで自然保護区でも、サイガを見るためには特別な覆いの中に入らなければならない。

 「サイガを見るなら、暑い日に来ることです。暑い日は、水を飲みに出てくるので、手の届く場所で見ることができます」とタチヤナさん。

 冬になると、サイガの毛は黒と白になり、雪だまりの中に溶け込んで、見えにくくなる。そして群れを見ることもほとんどない。

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