ロシア内戦の地獄、「死のハシケ」とは?

The National Museum of the Udmurt Republic named after Kuzebay Gerd
 「まだ生きている負傷者の傷口にウジがわき、死者の耳や鼻からもウジが溢れた。ハッチに近づくと耐え難い悪臭がした。収容者は何週間もその中に閉じ込められていた…」

 水上監獄は、ロシア内戦の歴史の最も暗い1ページである。貨物用のハシケに押し込められた人々はひどく狭小で不衛生な空間の中で、飢餓や看守による虐待に晒された。国内の河川を漂うこれらの船舶が「死のハシケ」と呼ばれたのも不思議ではない。

水上の地獄

 ハシケを改造した監獄には刑事犯と戦争捕虜が詰め込まれた。こうした監獄は、赤軍も白軍も利用していた。陸上の監獄より脱走が遥かに困難で、看守も少数で済んだ。

 両陣営は互いに、相手側が捕虜を満載した水上監獄を海や河の中ほどで故意に沈めたとして公然と非難した。もっとも、このような虐殺を裏付ける文書は存在しない。しかしそれでなくとも、「死のハシケ」は充分に悪夢のような場所であった。

 医師のコノノフは、白軍が運用したハシケ「ヴォルホフ」で目撃した光景を以下のように描写している。「収容者はひどく狭い空間に押し込まれている。空気と光の唯一の入り口であるハッチは釘で打たれて、数日間開かれなかった。パンの欠片以外の食料は全く無かった…ハシケの住民たちは皆がチフスもしくは赤痢にかかっていた。病人はその場で排泄し、排泄物はその下に居る者に滴り落ちた。死者は何日も生者と一緒くたに横たわっていた…まだ生きている負傷者の傷口にウジがわき、死者の耳や鼻からもウジが溢れた。ハッチに近づくと耐え難い悪臭がした。収容者は何週間もその中に閉じ込められていた…」

 収容者に与えられるパンの欠片は、しばしば色とりどりのカビに覆われており、暑い時期にはたちまち腐った塊になった。清潔な水は常に不足し、人々は船べりから水を汲んだが、これは腸疾患の蔓延に繋がった。

 収容者の所持品に何かしら価値のある物があれば、看守を通して食料を入手できた。収容者は唯一の持ち物であった長靴やズボンを乾パンに換えることもしばしばだった。

 看守は収容者に対して酷薄で、事あるごとに暴力に及び、収容者が死亡するケースもあった。銃殺ないし銃剣で刺殺された犠牲者の遺体は、船外に投棄された。

地獄からの脱出

 「死のハシケ」から脱走することは不可能に近かったが、そうした試みはあった。1919年7月のある暑い日、前述の水上監獄「ヴォルホフ」から収容者のグループが脱出を試みた。ハシケはチュメニ市の付近、トゥラ河を航行中だった。

 船内には刑事犯160人と赤軍の捕虜900人が収容されていた。捕虜のうちの400人は、ボリシェヴィキの側で戦っていたハンガリー人だった。白軍が収容者ごとハシケを沈めようとしているとの噂が広がったことが、反乱に繋がった。

 船倉の2つのハッチが開けられ、収容者が甲板上の便所に連れられている最中、「ウラー(万歳の意)」の声が挙がり、これが合図となった。船尾では看守から武器を奪って排除に成功したが、もう1つのハッチでは不首尾に終わった。

 失敗を悟った収容者たちは銃撃の中を水に飛び込み始めたが、岸まで泳ぎつけた人数はわずかだった。甲板に溢れ出た収容者を船倉に追い戻して事態を収容すると、看守らは懲罰として数十人を銃殺し、残りの収容者たちには3日間食事を与えなかった。

 一方、サラプル市近郊のゴリヤニ村の埠頭に繋がれていた白軍の水上監獄の収容者たちは幸運だった。ハシケに赤軍捕虜400人が居ることを知ったヴォルガ小艦隊司令官フョードル・ラスコリニコフは大胆な作戦に出た。

 1918年10月16日、水雷艇「プルィトキィ」が白軍の船に擬装して白軍に接近した。白軍に扮した水兵たちは、出迎えた白軍に対し、ハシケを移送するために来たと説明した。その時の堂々とした態度が、作戦を成功させた。

 ハシケをゴリヤニから充分な距離まで曳航すると、ボリシェヴィキは看守を襲撃してたちまち武装解除した。捕虜だったヴィケンチー・カルマノフはこのように回想している。

 「ハッチが開かれると、皆が両側に避けて行った。覗き込んだ水兵が、『みんな生きてるか?』と声をかけて、大きなパンを投げてよこした。そこから先は、言葉では言い尽くせない!『ウラー!』の叫びが挙がり、手を叩き、それでもまだ多くの者が味方だと信じられなかった」。

 水雷艇「プルィトキィ」の乗員だったエヴゲニー・フレイベルグは回想している。「苦しみぬいて痩せ細った人々を見るのが恐ろしかった。まるで墓から出てきたようだった…」

ロシア・ビヨンドがTelegramで登場!是非ご購読ください!>>>

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる