中国の専業主婦が10年かけてつくった「もう一つのロシア史」

ロシア・ビヨンド, Unsplash, Wikipedia
 彼女の詳細な記述は、これまでのウィキペディアの歴史の中で最大の「フェイク」と呼ばれた。

一見するといかにも史実だが

 中国の小説家、范禕(Yifan)が、創作のヒントを得ようと思い、ロシア史のトピックを渉猟したときのことだ。作家は偶然、ウィキペディア史上最大の「フェイク」を発見した。つまり、このオンライン百科事典をサーフィンしている間に、「カシン銀山」についての記述を見つけたのだった。

折毛が作成した記事

 この記事によれば、その鉱山の埋蔵量は極めて豊富で、その希少な財源を最初に見つけたトヴェリ大公国と強力なモスクワ大公国との間に争いを引き起こす。後者が、鉱山を自分のものにしたかったからだ。こうして、一連の熾烈な戦いが始まる。それは、1305年に勃発し、1485年にトヴェリ大公国が崩壊するまで、100年以上も続いた。以上は、中国語版ウィキペディアの詳細な記述による。

 「トヴェリ大公国の崩壊後も、鉱山は、モスクワ大公国とその後継政権によって採掘され続けた――18世紀半ばに、掘り尽くされて閉鎖されるまで」。こう記事は述べている。

実は「芸術的創造」でした

折毛が作成した記事

 ところが、これは、『不思議の国のアリス』の「ウサギ穴」に飛び込んだみたいな「パラレルワールド」だと判明する。すぐに作家は、何百もの関連記事も見つけた。それらは、互いに参照し合っており、ロシア史の詳細極まる「並行世界」になっていた。何者かが、数百にのぼる偽のエントリを苦心惨憺してつくり上げ、ロシア史に不慣れな一般読者のために、本物の信頼できる記述として提供したに違いなかった。

 「英語版とロシア語版のウィキには出てこない人物が、中国語版ウィキに登場する。そして、これらのキャラクターが本物の歴史的人物と混ざり合っていて、本物と偽物を区別できない。モスクワとトヴェリの長い戦争さえ、実在しないカシン銀山を中心に展開している」。何か変だと感じた小説家は書いた。 

 ウィキペディアが行ったその後の調査で、偽エントリのすべてがたった一人の寄稿者によって作成されたことが判明した。この寄稿者は、 少なくとも4つの偽アカウントを使用して、ロシア史を改変し、それをWebサイトで利用できる、本物の知識体系にうまくつなげた。

 すべての偽記事をつくったユーザーは、折毛(Zhemao)という女性だ。彼女は、ロシアに駐在する外交官の娘であり、ロシア史の専門家であり、夫はロシア人だと自称していたが、実は、中国の高卒の専業主婦だった。

 何年もの間、この女性は、研究とファンタジーを巧妙に混ぜ合わせつつ、別のロシア史を少しずつ構築し、その結果を中国語のウィキペディアに統合してきた。

嘘から実は出るか?

折毛が作成した記事

 女性は、でっち上げを暴露された後、自分がやったと認めて、謝罪の手紙を発表した。

 「諺にあるように、嘘をつくためには、より多くの嘘をつく必要があります。自分が書いた数十万語を削除するのは気が進まなかったので、その結果、かえって数百万語を失い、アカデミックな仲間の輪が崩壊してしまいました。私が起こした問題は取り返しがつかないので、永久の禁止が唯一の選択肢なのでしょう。私の今の知識は、生計を立てるのに十分ではないので、将来的には、何かの職を身に付けて、正直に働くことにします。こんな怪しげなことはもうしません」 

 これは、ウィキペディアの歴史を通じて、最大のガセネタになりかねなかったが、多くの人々は、何年もかけて独自の「作品」を――フィクションとは言いながら――つくり上げてきた女性への支持を表した。

 「それだけで自己矛盾せずに見事に完結している歴史的ロジックを、あらゆる風俗、衣服、金銭、いろんな道具など、あらゆるディテールとともに創り出したとは、本当に素晴らしい」。あるユーザーは中国のソーシャルネットワーク「Weibo」に書いている。

 今や有名なこの専業主婦は、そのうちに「小説を出さないか」というオファーを受けるかもしれない――その精密を極めたウィキペディアのフェイク記事に基づいて。

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