ロシア語の7つの意味不明な慣用句:どう訳したらいいのか…

Kira Lisitskaya (Photo: Shara Henderson, Reinhard Rohner/Global Look Press; Wikipedia)
 ロシア語を学ぶ外国人にとって、これらの表現は、擬音語(オノマトペ)か単なる戯言のように聞こえるが、ロシア人なら誰でも、すぐさまピンとくる。 「シュルイ・ムルイ」や「アトゥイ・バトゥイ」の由来は何か、そしてそれらが実際に何を意味するのかご説明しよう。

Шуры-муры「シュルイ・ムルイ」

 「彼女は、彼と『シュルイ・ムルイ』の仲になっているよ(Она крутит с ним шуры-муры)」。二人の間に何らかの恋愛関係がある、ということなのは分かるだろう。

 これは、フランス語が「愛の言葉」だった 19 世紀の表現だ。当時は、貴族以外の、フランス語を知らない伊達男でさえ、「思い人」に好印象を与えるために、いくつかの美しいフレーズを覚えようとした。「シュルイ・ムルイ(Шуры-муры)」は、フランス語の cher amour(わたしの愛しい女〈ひと〉)の発音がくずれたものだ。このフレーズは、他の同義語を知らない恋人たちの会話の中で何度も繰り返され得る。

 しかし、ロシア語のこの表現は、明らかにチュルク諸語の単語 surmur(混乱)の影響も受けている。だから、真剣な関係については「シュルイ・ムルイ」とは決して言わない。

Вась-вась「ヴァーシ・ヴァーシ」

モスクワ州の農民たち、19世紀

 この表現の由来は、ロシア人なら誰でも明らかだ。「ヴァーシャ(Вася)」は、「ヴァシーリー(Василий)」という男性名の愛称形だ。だから、誰かについて、「彼らは『ヴァーシ・ヴァーシ』の仲だ」と言った場合、これは、彼らが互いを愛称で呼び合う、親しい、くだけた関係であることを意味する。

Фигли-мигли「フィグリ・ミグリ」

 この表現は「いたずら、冗談」を意味し、しばしば、騙す目的の行為について使われる。ロシア語には18世紀に登場し、ポーランド語の figiel(手品、トリック、いたずら)に由来する。同じ単語から、ロシア語の 「フィグリャル(фигляр)」(道化、詐欺師、気取り屋)が生まれた。

 言語学者たちの説明によると、「ミグリ」は、いわゆる「音交替的畳語」によって「フィグリ」に加わった。つまり、慣用句の2つ目の成分で、子音が変化したわけだ。

Лясы точить「リャスイ・トチーチ」

 これは「無駄な会話をする、くだらないおしゃべりをする」という意味だが、その由来はいまだに不明だ。言語学者たちの一つの推測によると、「リャスイ(лясы)」 は、 「バリャスイ(балясы)」、つまり「階段のバラスター(手すり子)」から来ている。「バリャスイ」を「トチーチ」する、つまり「研ぐ、研磨する」のは難しくないが、非常に長くかかるというわけだ。

 しかし、この説には反論がある。「リャスイ」は、ロシア語で空虚なおしゃべりを意味する擬音語「リャ・リャ・リャ(ля-ля-ля)」 に由来するのではないかとの説もある。

Куролесить「クロレシチ」

『村の復活大祭の十字架行進』1861年

 この言葉の起源は、「クールイ」(鶏)でも「レス」(森)でもない。ギリシャ語の「主よ、憐れみたまえ」の意をする Κύριε ἐλέησον(キリエ・エレイソン)に由来する。この語句は、正教会のギリシャ語の礼拝で何度も繰り返され、聖職者が発する。

 しかし、古代ロシアの教会では、礼拝は、しばしばギリシャ語で行われたのに、ロシア人聖職者はギリシャ語を知らなかったり、知っていてもあやふやだったりしたため、耳で聞き覚えた祈祷文をただ繰り返す者が多かった。

 そして、早口でしょっちゅう繰り返すせいで、「キリエ・エレイソン」が「クロレシエ(куролесье)」に代わってしまったわけだ。ちなみに、この現象は、ロシアの古い謎々に含まれている。

 「森の中を行き、クロレスを歌い、肉入りの木のピローグを運ぶ。これは何?(Идут лесом, поют куролесом, несут деревянный пирог с мясом)」。答えは「お葬式」。

 そのため、ロシア語では、「クロレシチ」(クロレシエする)は、「慌てふためく、だらしなく過ごす」などの意味で残った。

Фокус-покус「フォークス・ポークス」

『手品師』1502年

 この表現は、教会の勤行に関係し、カトリックの儀式にも関わっており、ドイツ語からロシア語に入ってきた。カトリックの典礼はラテン語で行われる。キリストの肉と血を象徴するパンとワインの「聖変化」に際し、司祭は、「最後の晩餐」におけるキリストの言葉を発する。すなわち、「これはわたしの体である(Hoc est enim corpus meum)」。

 これにより、hoc est corpus は、これを唱えると、「聖変化」――奇跡的な何か――が起きると庶民には受け取られるようになった。

 しかし、ドイツの庶民はラテン語を知らず、単にその発音を聞き覚えて使ったから、hoc est corpus は、 Hokuspokus に変わった。

 また、大道芸人の奇術師は、この神聖な儀式をパロディ化して、「ホクスポクス!」と叫んだ。そして、彼らは帽子からウサギを取り出したり、杖を蛇に変えたりした。

 1635年には、手品の教本『Hocus Pocus Junior: The Anatomie of Legerdemain』(若きホクスポクス:手品の解剖)が英語で出版された。当時、フランス語のlegerdemain(「手の器用さ」、「手品」)で呼ばれていたのは、「魔術師」、「奇術師」の技だ。「若きホクスポクス」は、研究者たちの推測によると、この本の著者であるストリートマジシャンの芸名らしい。

 いずれにせよ、その後、17世紀のヨーロッパでは、ホクスポクスという言葉は、劇場での奇術の代名詞となり、ドイツ人やイギリス人によりロシアにも伝わった。欧州のマジシャンたちもパフォーマンスでお金を稼ぎに、当地にやって来たからだ。そして、ご想像の通り、彼らは…「フォークスニク(фокусник)」(奇術師、手品師)と呼ばれるようになった!

Аты-баты「アトゥイ・バトゥイ」

 「アトゥイ・バトゥイ、兵隊たちが行くよ、アトゥイ・バトゥイ、バザールへ行くよ、アトゥイ・バトゥイ、何を買ったの?アトゥイ・バトゥイ、サモワールだよ」

 このロシアの古い数え歌から、「アトゥイ・バトゥイ」の由来を簡単に覚えることができる。言語学者たちの説明によれば、「バトゥイ」はチュルク諸語で「戦士」を意味し、その語源はサンスクリット語に遡る。この言語で「バタ」は使用人、傭兵、少年、身分の低い者を指す。一方、「アタム」はサンスクリット語で「通過する」という意味だ。

 という次第で、「アトゥイ・バトゥイ」はそのまま「兵隊たちが行くよ」の意味になる。一部の研究者の推測では、これは、モンゴル・タタール軍の行進のリズムかもしれない。しかし、この仮説には具体的な裏付けがない。

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