ヘシは、17世紀ごろ、この地域に豆が初めて登場したときから、イングーシで作られてきた料理である。そして、豆とジャガイモ、牛肉が入ったこの濃厚なスープは、今では、北カフカス地方の共和国の一つであるイングーシの伝統料理の重要な一部となっている。このスープの特徴は、調理の工程のシンプルさ、そして地元の素材が活用されている点である。
豆を加えたスープはお腹を満たし、身体を温めてくれるだけでなく、豊富な繊維質で消化を助けてくれる。また豆はミネラルとビタミン、とりわけビタミンBをも含んでいる。牛肉と合わせることで、豆はスープに味の骨格と形を与えてくれる。
イングーシの民族料理はスパイスを多用することはなく、素材そのものの味と香りを残す調理法が好まれている。一方で、この地で採れるハーブが広く使われてきており、これが料理の自然な風味を引き立てている。これらのハーブはスパイスよりもマイルドで、料理にやさしいアクセントを与えるものとなっている。
イングーシは山岳地帯に位置している。そして、地元の料理に使われているのは、この山や岩をカーペットのように覆っている香りのよいハーブである。ヘシスープを含め、肉料理にもよく使われるタイムのセンティッド・ティーはおもてなし料理には欠かせないものである。さらに、ハーブはとてもヘルシーであり、抗菌作用と抗酸化作用のおかげで風邪に効く。
タイムに加えて、ヘシを特徴的なものにしているのが牛乳である。牛乳と豆という組み合わせはちょっと聞き慣れないものに思えるかもしれないが、実際にはスープの味をまろやかで、濃厚にし、面白い色にしてくれる。
その昔、イングーシの主婦たちがいかにして、燃える炭の上に鍋をおいて、その火の上で濃厚なヘシを調理していたのかは簡単に想像できる。スープは山のハーブと火のスモークの香りに満ちていた。しかしながら現在では、もちろんコンロを使って簡単に調理できるようになった。
クラシカルなヘシスープは、植物性、動物性、両方のタンパク質を含んでいる。動物性食品を使わずに作るベジタリアン用のスープもあるが、その場合、独特の風味は失われてしまう。もう一つのヘシのアレンジ法はトマトを加える作り方である。こちらのスープは風味に酸味が加わり、色はオレンジ色になる。
わたしが作るヘシは、できるだけ本格的なものに近づけようと、牛肉と牛乳を使い、鉄製の大釜をオーブンに入れて作る。わたしはすべてを1つの鍋で作っている。数世紀前の主婦たちにとって、きっとこれがよりやりやすい方法だっただろうと想像しながら・・・。肉、玉ねぎ、にんじんを炒め、そこに水に浸しておいた豆とじゃがいもを加えて煮る。
一般的に、本物のヘシスープは濃厚で具沢山であるべきだと考えられている。それゆえ、スープの調理には時間がかかる。牛肉と豆の両方を柔らかくするには、オーブンで4時間煮なければならない。しかし、スープをより濃厚にするためのお気に入りの技がある。それは、最後の工程で、肉を残してスープを取り出し、それをブレンダーにかけて、なめらかにしてから、また鍋に戻すというもので、こうすることによってスープはかなり濃厚になる。
そして最終的にスープはおいしく出来上がり、家族皆に喜ばれるものになる。味わい豊かで、心のこもったクリーミーなスープ、そして柔らかくなった牛肉は口の中でとろける。
材料:
- 牛肉 600㌘
- 豆 400〜500㌘(これを10時間、水に浸す)
- じゃがいも 3〜4個
- にんじん 2本
- 玉ねぎ 2個
- ピーマン 1個
- バター 30㌘
- 植物油 10〜20ml
- 牛乳 200ml
- コショウ/唐辛子 適量
- 塩 小さじ1と1/2(お好みで)
- タイム 適宜
作り方:
1. まず豆をたっぷりの水に一晩浸す
2. 牛肉は小さく切り、バターと植物油をひいたフライパンで炒める。ここでは蓋のついた鉄のフライパンを使う。
3. 玉ねぎを加える。
4. にんじんを小さく切り、加える。
5. 豆を投入し、熱湯を注ぐ。
6. じゃがいもとピーマンを加える。
7. 塩、黒コショウまたは唐辛子を入れる。
8. 鉄製のフライパンに蓋をして、オーブンに入れ、180℃で約4時間加熱する。
9. 肉を除いたスープの一部をブレンダーにかけ、なめらかにする。
10. スープに牛乳とできればフレッシュなタイムを入れ、蓋をして20分ほど置いておく。
11. フレッシュなタイム、唐辛子を加え、フラットブレッドと一緒にいただく。