まず最初に思い出していただきたいことは、ロシアの「サラダ」というのは、緑の葉っぱがたくさん使われた、欧米で「サラダ」と言われる一般的な軽いスターターではないことがほとんどだということである。ロシアのサラダは、さまざまな食材とマヨネーズで作られたヘビーな料理なのである。
次に、ここで作るサラダはそのネーミングの奇妙さはもちろん、見た目の面白さを競っても優勝すること間違いない。そんな「毛皮を着たニシン」と名付けられている珠玉のロシア料理をご紹介しよう。
このサラダがロシアでいつどのようにして誕生したのかについては諸説ある。元々は安価ながらも心のこもった、お酒に合う料理を探していた宿屋の主人アリスタルフ・プロコプツェフが考案したものだという説もある一方で、サラダはボリシェヴィキが政権に就いた直後の1918年から1919年にかけて作られたもので、政治的、社会的な象徴に溢れているという説もある。たとえば、表面のビーツの層は赤いソヴィエトの旗と社会主義革命を連想させ、ニシンは労働者を表しているというのである。一方、「毛皮を着たニシン」サラダはヴィネグレートサラダをより面白くした変形バージョンだという説もある。
「毛皮を着たニシン」がソ連の人々の間で人気を博するようになったのは、かなり後の1970年代になってからである。それは、マヨネーズサラダが料理における流行のピークを迎えた時代であった。そして、「毛皮を着たニシン」は、永続的に愛されているオリヴィエサラダやカニサラダと並んで、新年のご馳走のシンボルの一つとなった。
このサラダにはさまざまなバリエーションがあるが、基本的には、ニシン、じゃがいも、にんじん、ビーツが主な食材となっている。層の重ね方には多少の違いはあっても、重要なのは、一番底にニシンを置き、ビーツは一番上に広げるということである。
作り方はきわめてシンプルであるが、そこにはサラダの味や構造を左右するたくさんのポイントがある。
一番重要なのは、言うまでもなくニシンそのものである。もっとも良いのは、塩水に漬けた樽のニシンを使うこと。スパイシーなニシンはオススメ。
魚を丸ごと1匹買った場合は、下処理をして、骨を取り除くのに時間をかける必要がある。ニシンが塩辛すぎる場合は、牛乳に浸す。わたしが作るときにはオランダ産ニシンのうす塩漬けを使う。これなら刻んだ状態で売られている。
「毛皮を着たニシン」の古典的な作り方については議論がある。対立する主な2つの意見は、卵を使うかどうかという点に関するものである。卵はサラダをより柔らかくしてくれるが、卵はマヨネーズにも含まれているため、サラダを重いものにしてしまう。
玉ねぎも万人に好まれるものではない。ただし、わたし自身は、玉ねぎはあらゆるニシン料理に使われているという観点から、加えた方がよいと考えている。玉ねぎの刺激ある辛さが苦手なら、熱湯にさらすか予め、酢漬けにしておくとよい。
サラダの風味を豊かにしてくれるもう一つの食材は酸味のあるりんごである。さらに、炒めたキノコや玉ねぎ、チーズを入れるという作り方もある。しかしこれらの食材は「毛皮を着たニシン」の味を劇的に変えてしまうかもしれない。
野菜は皮を剥かずに茹でる。柔らかくなる時間をそろえるため、同サイズのものを選ぶこと。またビーツはじゃがいもやにんじんよりも大きく、調理に時間がかかるため、別に茹でる。野菜は茹ですぎないこと。形くずれしないようにすれば、おろし器にかけやすい。野菜が茹であがったら、冷水に浸しておくと、簡単に皮をむきやすい。
これはそれほど重要なことではなく、個人の好みに委ねられるものであるが、最終的な味を左右するものである。ニシンは小さく刻むか角切りにする。より繊細な状態にするには、細かいおろし器を使う。しかし、伝統的に、野菜は粗めのおろし器でおろす。
オリジナルのレシピでは、ニシンを一番底にして、その上に、じゃがいも、玉ねぎ、卵、にんじん、ビーツを重ね、それぞれの層にマヨネーズを塗ると書かれている。ちなみに、わたしが好きなのは、ニシンのすぐ上に玉ねぎを置くやり方である。1種類ずつ層を重ねた後、それをまた繰り返して、さらに多層にする作り方、じゃがいもの層の上にニシンを乗せるという作り方もある。
通常、このサラダは広くて平らなお皿に盛り付けられる。お皿は楕円形であることもある。しかしケーキ型に入れて、層がきれいに見えるケーキのように作ることもできる。または小さな透明のカップに入れてアレンジしたり、深いガラスのボウルに入れてもよい。
最後の注意点でありながら、少なからず大切なのが、サラダにマヨネーズをなじませるための「休ませる時間」である。層を作ってから数時間すると、マヨネーズが各層に滲み、全体の味がなじむ。
1. (ビーツ以外の)野菜と卵は冷水に入れ、火にかける。ビーツは他の野菜とは別に茹でるか焼く。
2. 卵は先にできるので、取り出して、冷水をかけて冷ます。
3. 玉ねぎはみじん切りにする。
4. 玉ねぎを熱湯にさらし、水を切る。
5. 次に上から酢をかける。これで玉ねぎの辛味を和らげることができる。
6. 野菜にナイフを入れてみて、ナイフがすっと通り、崩れない程度に柔らかくなったら、水をかけて冷やす。
7. ニシンは小さく刻む。ニシンを丸ごと1匹用意した場合は、尾の方から皮をはぎ、内臓を取り出し、頭と背骨を取り除く。2つに分けて、骨を丁寧に取る。
8. ニシンはお皿または容器の底に隙間なく敷き詰める。
9. 玉ねぎを加える。
10. りんごをおろす(伝統的なレシピで作りたい場合はこの工程は飛ばす)。
11. 上に乗せ、マヨネーズを塗る。
12. 各層の上に均等にマヨネーズをかけるのに、袋に入れるとやりやすい。
13. その上に卵をおろして入れ、マヨネーズを塗る。
14. じゃがいもを加えて、マヨネーズを塗る。
15. にんじんを加えて、マヨネーズを塗る。層の厚みはお好みで調整する。
16. 最後にビーツを加える。
17. ビーツの層は念入りに覆う。
18. 卵黄、レモン、パセリなどで、お好みに飾り付けたら、数時間休ませる。
19. 出来上がり。どうぞ召し上がれ!
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