このスイバとほうれん草と高級魚を使ったシチーに、タンボフの領主ミハイル・ラフマノフの名前が付けられているのは偶然ではない。1850年代、彼は食通として、また料理の考案人として、かなり有名な人物であった。しかも彼のテーブルに上る料理はその豪華さ(品数もかなり豊富であった)と奇抜さで常に客人を驚かせた。
ラフマノフのキッチンにはオランダのタイルが貼られ、温度計がいくつもかけられていたと言われる。彼が調理する鶏や七面鳥には、トリュフの入った粥が与えられていた。
ラフマノフは食べ物にとてもうるさかった。フグは胸の上部分だけ、鴨は胸肉と脳みそ、豚は乳房、猪は頭しか食べなかった。
好物はこってりとしたザリガニのビスクと凍った煮凝りであったが、ラフマノフが食べるザリガニは特別な調理法で料理された。水ではなく、パルメザンの入った生クリームで茹でられたのである。そばの実はエゾライチョウのブイヨンにロックフォールチーズを加えたもので煮た。精進期の料理にはアーモンドとけしの実のオイルをふりかけた。
ラフマノフは雇っていたシェフと共に、斬新な料理を考案し、隣人たちに新たな料理を振る舞い、彼の家には常に大勢の客が訪れた。
ラフマノフは、叔父から受け取った遺産が底をつくまでの8年間、こうして楽しんだ。彼は自分でお金を稼ぐことはできず、最後は貧困と孤独のうちに亡くなった。しかし、ラフマノフのシチーとその他いくつかの傑作のレシピが彼の思い出として残された。
「ラフマノフのシチーは本質的にとてもロシア的なものです」と語るのは、モスクワのロシア料理レストラン「マトリョーシカ」のシェフ、ヴラド・ピスクノフさん。「根菜の冷製スープでもあり、クワスを使った魚のスープでもあり、普通の春のグリーンスープでもあるのです。ラフマノフは食材に大きな注意を払っていたことは有名で、彼の考案したシチーを作るのには、最高級の魚、最も新鮮な葉物野菜、良質の農家の卵を使わなければなりません。そうすればおいしいシチーができます」。
ここでは、この歴史あるスープのヴラド・ピスクノフさんのレシピをご紹介することにする。よく使われるキャベツではなく、ほうれん草とスイバが使われている。そして魚が中心の食材となっている。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。