レフ・トルストイに傾倒した有名な外国人は:同時代から21世紀の現代にいたるまで

Russia Beyond (Photo: Hulton Archive/Getty Images; Mary Evans Picture Library/Global Look Press)
 作家・思想家のレフ・トルストイ(1828~1910年)には、ロシア内外にファンが多くいた。彼の同時代人から、21世紀の作家にいたるまで、愛読者、信奉者は尽きることがない。世界文学の名作『戦争と平和』、『アンナ・カレーニナ』の作者に傾倒した、有名な外国人を挙げてみよう。

ギュスターヴ・フローベール:『戦争と平和』一読して賛嘆の声を上げた

フランスの小説家ギュスターヴ・フローベール

 トルストイの叙事的な大長編の翻訳は、作家イワン・ツルゲーネフによって、このフランス人作家に送られた。ツルゲーネフは、ロシア文学をヨーロッパに広めるうえで多大な貢献をしている。トルストイへの手紙の中で、彼は、フローベールの批評を次のように伝えている。

 「これは第一級の作品だ!何という描写、何という犀利な心理分析!最初の2巻は素晴らしい」と、フローベールは書いている。「シェイクスピアに比肩すると思う!読みつつ、しばしば歓声を上げてしまう。しかも、それがずっと続くのだ。そう、強烈な作品だ、すごく強烈な!」

 ちなみに、トルストイ自身も、フローベールの『ボヴァリー夫人』に強く影響されている。そして、後に多くの批評家が、『アンナ・カレーニナ』にその影響を見出している。 

セオドア・ドライサー:トルストイの感化で作家になった

アメリカの作家セオドア・ドライサー

 ドライサーは、「トルストイの不朽の偉大さ」を、トルストイの社会、道徳に関する理論ではなく、小説の中に見出したのだった。「それらの作品では、彼の比類なき巨大な人間性が輝き、そして今も輝き続けている。それは、万人のために、より良い生活を送ろうとする彼の願いだ」。アメリカの小説家は、1928年のトルストイ生誕100周年にちなんだ論文で、こう書いている。

 さらにドライサーは、自身の青春時代を描いた自伝的作品『夜明け』の中で、トルストイの後期の作品、『クロイツェル・ソナタ』と『イワン・イリイチの死』にとくに影響を受けたことを認めている。 

 「私は、これらの作品の中に示された生命に満ちた場面に感嘆し衝撃を受けた。そして、突然、作家になれたらどんなに素晴らしいかという考えが――まるでまったく新しい想念であるかのように――頭に浮かんだ。トルストイのように書き、全世界に耳を傾けてもらえたらいいのに!」

トーマス・マン:崇拝者

ドイツの作家トーマス・マン

 マンのロシ​​ア語訳者ソロモン・アプトによると、このドイツ人作家は、円熟期にはチェーホフに惹かれていた。トルストイは、「彼の青春時代の神」だったという。

 「おそらく世界は、トルストイほどその作品が不朽で、叙事的・ホメロス的な性格が強烈な芸術家を他に知らなかった」。トルストイ生誕100周年にちなむ論文でマンはこう述べている。 

 「彼の文学作品の印象の力強さは比類ない」。さらに、マンは、トルストイ作品の道徳的な力を、ミケランジェロのアトラスの緊張した筋肉にたとえている。

 このドイツ人作家は、次のような空想さえ語っている。第一次世界大戦は、「もし1914年に、ヤースナヤ・ポリャーナの老人がまだ存命で、その洞察力に満ちた鋭い灰色の目で世界を見つめていれば」起きなかったかもしれない、と。トルストイは、19世紀という偉大な時代の人間であり、「巨大な重荷を負っても双肩がおしひしがれることのなかった巨人だ。こんな重荷は、現代のやせぎすで喘息持ちの人々を押しつぶしかねない」。

マハトマ・ガンディー:トルストイの「慎ましい信奉者」

インドの思想家・政治運動家 マハトマ・ガンディー

 インドの思想家にして「独立の父」は、若い頃にトルストイに手紙を書いている。ガンディーは、あなたの著作が私の世界観に深い印象を与えた、と記した。また彼は、自著の翻訳もトルストイに送っている。「申し上げるまでもなく、この著作へのあなたの批評は、私にとって貴重この上ないものになるでしょう」。彼は手紙に次のように署名した。「あなたの謙虚な信奉者」

 ガンディーの「非暴力、不服従」の教えは、とりわけトルストイとその思想「暴力をもって悪に抗するなかれ」に触発された。

 ガンディーの自伝によれば、トルストイの論文『神の王国は汝らのうちにあり』を読んで「衝撃を受け」、他の本は、「トルストイの独自の思想、深い道徳性、誠実さに比べれば取るに足らない」と思えたという。また、ガンディーは、その著書の中で、トルストイとその「最高の道徳的権威」について再三言及している。 

トーマス・エジソン:トルストイの肉声を永遠に残そうとした

アメリカの発明家・起業家トーマス・エジソン

 1908年、蓄音機(錫箔式フォノグラフ)の発明家は、ニューヨークからヤースナヤ・ポリャーナに手紙を送った。エジソンはトルストイに、英語とフランス語で彼の声を録音する許可を求めた。そして、機材と助手を送ると約束した。

 「あなたは世界的な名声を得ています。私の確信するところでは、あなたの言葉は、何百万人もの人々に傾聴されるでしょう。彼らは、あなたの肉声から直接的な感化を受けざるを得ません。そして、あなたの言葉は、蓄音機のような「仲介者」のおかげで、永遠に保存されるでしょう」

 そして、それは実現した。1909年、グラフォフォン社の社員は、トルストイの肉声をロシア語、英語、フランス語、ドイツ語で録音した。この装置は、トルストイへの贈り物として残され、トルストイは、録音に非常に興味を持ち、子供向けのおとぎ話や名言、金言を口述するようになった。

 ロマン・ロラン:トルストイは我々のすべて

フランスの作家ロマン・ロラン

 トルストイに関する著作の中でロランは、このロシア人作家は世界の文化において特筆すべき存在だとしている。

 「ヨーロッパにこのような声が響いたことはかつてなかった。我々は、トルストイの創作をいくら賞賛しても足りない。我々は、トルストイの著作よって生き、それは我々自身のものだった。その燃えるような生命力によって、彼の心の若さによって、そして文明の欺瞞に対する恐るべき告発によって、我々は生きてきた。ゆえに我々自身のものだったのだ…」

 ロランは、トルストイが彼個人に深い感化を与えたことを認めている。「私は、人生の終わりまで、壮大な物語『戦争と平和』の巨匠に対し、そして不滅の民話や短編の作者に対して、忠実であり感謝し続けるでしょう。彼は、私の心の中で、シェイクスピア、ゲーテ、ベートーヴェンと並ぶ位置を占めています」。ロランは、ブルガリアの批評家ルシン・フィリポフにこう書いている。

オルハン・パムク:『アンナ・カレーニナ』を紙がすり減るほど読んだ

トルコの作家オルハン・パムク

 「『アンナ・カレーニナ』はこれまでに書かれた最高の小説だと思います」。トルコ人のノーベル賞作家である彼は、こう語った。彼が、ヤースナヤ・ポリャーナ文学賞を授与されて、モスクワで講演会を行ったときのことだ。 

 パムクは、『アンナ・カレーニナ』を何度も繰り返し読んで、ほぼ暗記しており、コロンビア大学でトルストイについて講義しているという。

 「オブロンスキーがレーヴィンとレストランで食事する場面が好きです。何度も読みました。とてもリアルで自然で、気取ったところがありません」

 パムクは、トルストイを文学の金字塔だと考えている。「彼は、我々に人生とは何かを示し、人生で何が大事かを教えてくれます」。パムクの指摘によると、トルストイは、その小説を最高の価値観で満たしている。

イーユン・リー:パンデミックをトルストイとともに過ごす

アメリカの作家イーユン・リー

 パンデミックとロックダウンが始まったばかりの2020年3月、中国系アメリカ人の作家イーユン・リーは、次のようなキャンペーンを始めようと決意した。すなわち、長編小説『戦争と平和』を一緒に読みながらディスカッションする。そして、リーと世界中の彼女のオンラインリスナーは、85日間トルストイから離れなかった(彼らは、読書の感想、印象を、ソーシャルネットワークに、ハッシュタグ#TolstoyTogetherで残した)。

 多くの人にとって、これは伝説の小説を初めて読む機会となったが、リーは毎年読み返していたという。「人生が不確実であればあるほど、『戦争と平和』はより確固たる基盤を与えてくれることが分かった」。作家はこう言う。2021年にも彼女はこのキャンペーンを繰り返した。

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