ロシアのドラマ『アリサ・ヒューマノイド/Better Than Us』をお薦めする5つの理由

 このSFドラマは視聴回数で『ブラック・ミラー』と『セックス・エデュケーション』を抜いた。2019年にNetflixに買い取られて以降、同サービスの膨大なライブラリに埋没することなく、人気を保っている。

1. 主要なテーマは、いよいよ現実味を帯びてきたAIの問題

 舞台は近未来。アンドロイドは完全に日常生活の一部となり、日常的な単純作業から人類を開放した。多くのアンドロイドは人間の外見や感情まで相当程度に模倣可能で、近いうちに新世代型も量産体制に入る予定となっている。見た目は人間とほぼ変わらない。相手の感情を読み取って瞬時に反応できる上、自主的な意思決定も行える。

 当然ながら、アンドロイドの氾濫に反感を抱く者も多い。アンドロイドには有名なアシモフのロボット三原則がプログラムされており、生命に対して危害を及ぼすことはできない。このように無害であるにも関わらず、アンドロイドを破壊してまわる、新たなラッダイト運動も広がりつつあった。そうした活動のさなか、ついに人間の死者も発生する。

 しかし、人間側も反撃される危険が発生していた。モスクワに、欠陥を抱えたとあるアンドロイド“アリサ”が紛れ込んだ。その弱々しい外見(女優はパウリナ・アンドレーエワ)に反し、彼女は意思と呼び得るものを持ち、しかも、人間を殺すことを厭わない。 

2. 主演は、同じくNetflixのランキングで『リック・アンド・モーティ』を上回ったもう一つの国際的ヒット作、『湖へ』に出演したスターたち 

 『湖へ』(2020年)でキリル・カロは自閉症の青年(エルダル・カリムリン)の継父役を演じた。同作では未知のパンデミックにより文明が崩壊の危機に瀕する中、登場人物たちが協調していこうとする。『アリサ・ヒューマノイド』ではパンデミックは発生せず、カロが演じるのは実の父親という違いはあるが、両作には共通点も多い。

 検死官のサフロノフ(カロ)は妻と離婚しており、娘(ヴィタ・コルニエンコ)とも、強情なティーンエイジャーの息子(カリムリン)とも滅多に会わない。ある時、彼は事態を変えるチャンスを得る。一時的に子供たちを世話することになるのだ。ところが同じ頃、ひょんなことからアンドロイドのアリサが同居することになり、事態は複雑化する。殺人ロボットは召使の役目が不服で、事実上の母親役を果たそうとする。もちろん、家族のだれ一人、アリサの本質に気付いていない。

3. 舞台は近未来かつオルタナティブな現実

 制作陣が語ったところによれば、興味を惹くようなSF世界のリアルを構想するのに長い時間を費やしたという。オリジナリティがあり、ビジュアル面も面白く、かつ予算も抑える必要があった。そして、エレガントな方法が導き出された。映像中のモスクワは、現実のものと非常によく似ている。自動車の車種もほぼ同じで、ドローンが飛び交い、高速道路は東京を連想させる。際立って未来的に思えるディティールは多くない。信号機はホログラムになり、紙は透明なフィルムで、スマートブレスレットに替わって、皮膚に直接メッセージが浮かび上がる、といったところだ。

 最大の技術革新はもちろん、アンドロイドだ。その進歩は、他のあらゆる分野の数歩先を行っている。監督のアレクサンドル・ジュンコフスキーはとあるインタビューでこのアンバランスについて、「例えば、もし1950年代にもっと多くのリソースと科学的発想がロボット工学に向けられていたら、どうなっていたでしょうか」と語り、違う方向に進歩した場合に有り得たかもしれないパラレルワールドであると説明した。

4. 人型ロボットの造形も特殊で、人形に似ている

 美術スタッフが参考にした中には、大きな目をしたソ連の古い人形もあった。アンドロイドの不自然な外観を強調するために、俳優は肌に化粧を施し、明らかに人工毛っぽいカツラをつけ、特注のカラーコンタクトを装着した。アンドロイドの瞳は光っているように見えるが、これは映像を加工して輝きを増したものである。光るレンズも存在するが、視力への悪影響を懸念して使われなかった。

 最新型のアンドロイドの動作も、同種のSF映画で見慣れているものとは異なる振付けがなされた。動きは滑らかだが、それでもやはり人間とは異なる。振付師のマクシム・ユロフは、ブレイクダンサーの動きからインスピレーションを得たと語っている。

5. 2019年にNetflixがオリジナル・ラインナップとして買い取った最初のロシア発プロジェクトとして、『アリサ・ヒューマノイド』はロシア映画界にとって画期的な先例となった

 このシリーズの成功を受けて、その後も重要な契約が続いた。Netflix Originalsのラインナップにはドラマシリーズ『湖へ』、映画『シルバー・スケート』、『刑事グロム VS 粛正の疫病ドクター』、アニメ『秘密のまほう管理局』が加わった。

 『アリサ・ヒューマノイド』の成功は、映画としての水準の高さもさることながら、いつ、どこでも現実の世界で起こりうる普遍的なテーマを扱ったことも大きな要因だろう。作品が扱うテーマもアクチュアルでありつつ、物語は米英合作のドラマシリーズ『ヒューマンズ』や、スウェーデンの『Real Humans』といったSF作品とも異なる方向に発展していく。

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