アンナ・カレーニナを演じた名女優10人

カルチャー
アレクサンドラ・グゼワ
 トルストイによる長編恋愛譚は、世界で最も映像化されたことの多い作品の一つだ。映画化は30回以上。ヒロインを演じた名女優たちを振り返ってみよう。

1. グレタ・ガルボ

 伝説的名女優は、アンナ・カレーニナ役を2回演じている。最初はサイレント映画の『Love』(1927年)。相手役はジョン・ギルバートで、ガルボとは実生活でも恋愛関係にあった。なお、ガルボはギルバートと教会でかなり劇的な別れ方をしたという。

 8年後、ガルボはカレーニナを再演する。1935年の『アンナ・カレーニナ』はハリウッドの古典として記憶された。ガルボの代表作の一つとされる。

2. ヴィヴィアン・リー

 大当たりだったスカーレット・オハラ役から9年後、1948年にアンナ・カレーニナを演じた。同じくらい情熱的で、決断力に富む女性の役だ。だが、フランスのジュリアン・デュヴィヴィエ監督によるこの作品は、あまりヒットしなかった。

3. ツリー・モレノ

 アルゼンチン映画の黄金時代を彩った美貌のスターが出演したのは、『禁じられた愛(Amor prohibido)』(1955年)。

『アンナ・カレーニナ』の作品世界は1950年代のアルゼンチンに移されている。

4. タチヤナ・サモイロワ

 アレクサンドル・ザルヒ監督によるソ連版の『アンナ・カレーニナ』(1967年)は、現在に至るまで同作の映画化のお手本的作品とされている。タチヤナ・サモイロワの好演も、その一因であろう。ロシア映画として唯一カンヌでグランプリに輝いた『戦争と貞操(鶴は翔んでゆく)』でヒロインを演じたのは、他ならぬサモイロワである。

 ヴロンスキーを演じたワシーリー・ラノヴォイは当時、サモイロワの元夫で、これもまた、このデュエットにドラマ性をもたらした。

5. マイヤ・プリセツカヤ

 トルストイ作のファム・ファタルの役には、伝説的プリマのマイヤ・プリセツカヤも挑戦した。バレエ映画『アンナ・カレーニナ』(1974年)のベースとなったのは、ボリショイ劇場の上演作品である。当時プリセツカヤは50歳間近だったが、恋する23歳の女性役を見事にこなした。

 なお、プリセツカヤは前述の1967年版の映画でも端役で出演している。ヴロンスキーの従妹のベッツィ役で、競馬場での登場シーンが印象的。

6. ジャクリーン・ビセット

 『ベストフレンズ(Rich and Famous)』などで人気を博したイギリスのスター。1985年に『アンナ・カレーニナ』で主演している。ナポレオンとジョセフィーヌの恋愛を描いたヒット作より前である。だが、CBSで放送されたこのドラマは批評家にあまりウケが良くなく、IMDbでも点数は6.3と振るわない。

7. ソフィー・マルソー

 この『アンナ・カレーニナ』(1997年)は、制作プロダクションIcon Productionsがロシアの映画スタジオのレンフィルムとTRITEと共同で制作した。撮影はロシアで行われた。トルストイの原作には改変が加えられたが、作品内の表現や、19世紀ロシアの綿密な再現は評論家から高く評価された。もちろん、フランスの女優ソフィー・マルソーとショーン・ビーンの好演も評価されたのは、言うまでもない。

 この映画は、マルソーの私生活にも影響した。彼女はポーランドの映画監督アンジェイ・ズラウスキーと離別し、本作のプロデューサーの一人だったジム・レムリーと結ばれた。

8. キーラ・ナイトレイ

 アカデミー賞作品、ジョー・ライト監督の『アンナ・カレーニナ』は、いわゆる映像化作品とも少し違う。むしろ、これは舞台劇のスケッチとでも言うべきか。流れが断続的である故に批評家の批判にも晒されたが、衣裳の素晴らしさは審査員含め誰もが認めるところとなった。キーラ・ナイトレイが演じたヒロインは実にリアルであり、それ故に観客を苛立たせる側面もあった。 

 ヴロンスキー(アーロン・テイラー=ジョンソン)のやや不明瞭な演技もあって、騙された夫のカレーニン(ジュード・ロウ)の方がむしろ魅力的で、視聴者の好感と注目を集めることになった。

9. ヴィットリア・プッチーニ

 TV用のミニシリーズ『アンナ・カレーニナ』(2013年)は、イタリアの女優ヴィットリア・プッチーニ主演。IMDbの点数も7.2と悪くない。批評家も、原作の偉大さを考慮すれば、それなりに完成度の高い作品と受け止めた。

 本作の撮影中にも別のドラマが発生している。ドラマ『Elisa di Rivombrosa』で共演した俳優アレッサンドロ・プレツィオージとの10年にわたる交際を終えたプッチーニは、撮影監督のファブリッツィオ・ルッキと交際を始めた。

10. エリザヴェータ・ボヤルスカヤ

 カレン・シャフナザーロフ監督作品『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』(2017年)では、物語はヴロンスキー視点から展開する。初めてヴロンスキーのドラマとして描かれ、そこでは彼は愛を失う。最も、原作との大きな相違点もある。監督の創作により、ヴロンスキーはずっと後の1904年、日露戦争中の満州で戦っているさなか、愛する女性を思い出すのである。

 カレーニナ役はエリザヴェータ・ボヤルスカヤ、ヴロンスキー役はマクシム・マトヴェーエフだが、この2人は実生活でも夫婦である。

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