イコン画とファンタジーを融合したロシアの芸術家(写真特集)

Anton Frolov
 アントン・フロロフの作品は、一見、古代ロシアのイコン画のスタイルで描かれたように感じられる。しかし、そこには聖人の代わりに異星人と未来のテクノロジーのイメージが描かれている。

 アントン・フロロフ(1982年生)は、子どもの頃から、スタニスラフ・レムやストルガツキー兄弟のSF小説に夢中だった。そして、そんな彼がもう一つ大好きだったのが、ソ連で出版された本や雑誌に掲載されたそれらの小説に添えられていたロベルト・アヴォチンの驚くべき挿絵であった。「繊細で、謎めいた幻想の世界、秘密めいた霞の中を浮く星・・・」そんなすべてがアントンの心を奪ったのである。

ロベルト・アヴォチンによる挿絵

 そんなアントンが画家になった。その画風は古代ロシアのイコン画を思わせる。アントンは木、テンペラ、そして金箔を模した合金のシートを使って、創作活動を行なっている。しかし、その「イコン」に描かれているのは聖人や聖書のストーリーではなく、超文明や謎の異星人、人工知能、別の惑星からの不思議なメッセージなどである。

 さまざまな画風を実験的に試しながら、アントンは2012年に、日本の漫画の動きと古代ロシアのイコン画のラコニズムを融合させたデッサンを描き上げた。そしてそこに、偶然にも、未来派的な特徴を見出したのである。

 「それは、かなり昔に我々の世界に現れ、理性的な生活の始まりを与えた異星人の姿だったのです」とアントンは言う。

 アントンは、そのスタイルを「イコン的未来主義」と名づけ、精神性とハイテクの融合と位置付けた。では、そんなアントン・フロロフの作品をいくつか紹介しよう。

「レッドライン」、2022年

 アントンは、細い赤いラインという重要な要素を見出すまで、この作品を長いこと仕上げることができなかったと明かしている。この線は「引き返せない」線、つまりその向こうには崩壊しかないということを象徴している。そして番人がその線への道を守っているのである。

「赤い花」、2022年

 この作品は、ロシア版の「美女と野獣」である「赤い花」にテーマを得ている。ただし、花はプロトンの構造式のスタイルで描かれ、ポプラの梢の向こうには太陽の代わりに偏在する三角錐が腐敗した世界を見つめている。

「別の原子」、2022年

 元々は、イコン風の人物を惑星と宇宙を背景に描くというアイデアであったというが、創作過程で、アントンは「別の原子」をシンボリックに描くことで、マクロ世界からミクロ世界へと移行した。(タイトルは、スティーヴン・キングの小説「霧」に由来している)。

「反重力」、2022年

 この作品でアントンは、イコン画の技法「金のハッチング」を用いている。この技法はイコン画家や細密画を描いたパレフ派の画家たちが用いたものである。「細い筆でのりをつけ、その上から金を乗せていくのです。結果、金は角のアクセントとなり、形の立体感を強調します」。

「世界の青年時代」、2022年

 イコン的な絵の背景にアントンが1970年代の社会主義的雰囲気の建築を使うのはこれが初めてではない。「金の永遠の中に浮かぶ奇妙な建築物を背景にした自由とエネルギーのイメージ」だという。 

「フォトン1」と「フォトン2」(ヨルマラグループ)、2002年

 「フォトン」とは光子で、認識の光を象徴する。この宇宙的な顔は、ストルガツキー兄弟の「正午の世界」にインスピレーションを得ている。科学研究グループ「ヨルマラ」は、恒星船「闇」に乗り、ブラックホールに入り込んでいくが、戻ることはできない。アントンはこの実験に参加したメンバーのファンタジックな肖像画を描いた。

「相対主義の騎士」、2022年

 この作品は、黙示録の四騎士とこの世界を操る人間の試みについての考えというものを予感させる。「人類の進化スピードはコントロールを失うほどのものになるのだろうか」と画家は問いかけている。

「万華鏡」、2021年

 火星の植民地化と「男女のつながり」をテーマにしたファンタジー溢れる作品。1979年の映画「エイリアン」にインスピレーションを得た。

映画「エイリアン」のシーン

「ヴィザンチンのレーダー」、2022年9月15日 

 ブルータリズムの建築を背景にした一過性のヴィザンチンのイメージが、デジタル世界における孤立と孤独について語っている。

「星座の秘密」、2021年

 宗教と科学について考察しつつ、アントンはそれらが融合して生まれる3つ目の現象について想像する。

「落下するUFO」、2021年 

 この複雑な構成の中に、アントンは2つの世界の精神的な交わりについて考察している。

「アンドロメダ」、2016年

聖母像のSFバージョン。 

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