行方不明者を探すボランティアたち

タス通信

タス通信

幼い少女の死をきっかけに、ロシア全土の数十の都市に、行方不明者を探すボランティア団体が生まれた。

 ロシアでは毎年、数万人が行方不明になっており、その捜索には、警察とレスキュー隊だけでなく、ボランティア団体も携わっている。ロシアNOWの記者が、こうした団体の一つである「リーザ・アレルト」(http://lizaalert.org/)のメンバー達に話を聞いた。団体の名は、2010年に行方を断ち死亡した少女の名に因んでいる。

 

友達の親戚が行方不明に

 ある朝、筆者がフェイスブックの自分のページを見ていたら、友達のアリョーナの夫の兄弟が行方不明になったとの知らせが飛び込んできた。これまでにも似たようなメッセージを見るたびに、こんなところに知らせを出して役に立つんだろうかと訝っていたが、今回に限っては、知人の身内のことだったので、居ても立ってもいられなくなった。何かの理由で家を出た人間を一体どうやって探したらいいのか?

 こういう場合に警察は、動きだす前にまず3日間待ってみることを勧めるのが普通だ。でも、アリョーナの親戚は精神病だったから、直ちに捜索を始める必要がある。そこで、ソーシャルネットワークに知らせを出すことにした。もしかすると、たまたま親戚が行った先に共通の知人がいて、目撃しているかもしれない。

 すると、もうその日のうちに、「リーザ・アレルト」のボランティア達がやって来て、援助を申し出てくれた。彼らは、いなくなった時の経緯を事細かに尋ね、ネットなどに掲載できる写真を提供してほしいと言い、行方不明者の外見を詳しく聞いた。

 「この人達が捜索のノウハウを持っていることはすぐ分かった。彼らのそのノウハウをこちらが確かめる間もなく、親戚が見つかったからね。彼は、モスクワ州の辺鄙なところに電車で行ってたの」。こうアリョーナは私に説明してくれた。

 実際、「リーザ・アレルト」はこの数年間の活動で、自分達の捜索方法を確立している。今では、行方不明者の身内だけでなく、プロのレスキュー隊も支援を要請してくることがある。

 

どうやって探すのか

 「リーザ・アレルト」のメンバーであるアンナさんは、2011年から捜索活動に携わっており、初歩の段階から始めて、今やいくつかの地域を統括するまでになっている。「私達は先ず、行方不明者の身内の方と連絡を取り、情報を集めて、何が起きたのか理解しようとします。時には、状況を正確に再現するために、隣人達から聞きとりを行わねばならないことも。家出した人と前日喧嘩したことなどは、隠したがる傾向があるからです」。アンナさんはこう説明する。「あと、酒飲みが家出したような場合も、言いたがらないことが多いです。それを言うと、私達が探すのを止めると思うんですね。でも、私達にとって必要なのは正確な状況であって、こんな事情で捜索を断るようなことはありません」

 正確な状況を知ることは、その人が本当に家出したのか、それとも何かの事件に遭ったのかを判断するうえで、とくに大事だという。比較的最近、ブリャンスクで、幼児が「蒸発」もしくは誘拐されたとして届けを出した両親がいたが、実は、彼らは子供を殺して、証拠を隠滅しようとしていたのだった。

 情報を集めると、今度は捜索方法を選ぶことになる。「家出少年(少女)を探すときは、ビラは貼らずに、駅と警察に情報を通知します。子供を怯えさせないためですね。さらに、各都市を結ぶ連絡センターに支援を頼む必要があるか、それとも、その人が現れそうな場所に張り込むだけで十分か判断します。もし、森で迷子になったのなら、現場に行かねばなりませんが、森をしらみつぶしにするまでもなく、通常人が歩くルートを辿るだけで十分なことが多いです」

 

「人の役に立ちたい」

 アンナさんがこの活動を始めたのは、まだ学生の頃だ。当時、彼女はたまたま入院し、自分の専門と医師の仕事とが、いかに社会にとってその有益度が違うか身にしみたのだと言う。それで、自分も何か人の役に立ちたいと思い立った彼女は、「リーザ・アレルト」の活動に行き当たり、ボランティアとして参加するようになった。

 先ず、航空機やヘリも加わる訓練を受けてから、実際の捜索活動を体験した。「その時は、トヴェリ州に墜落したヘリを探したんです。こういう活動を一緒にやると、仲間同士のつながりが、同級生や職場の同僚よりも密になってきます。私達には共通の理想があるので、その気持ちが、余暇は全部この活動に捧げるようにさせるし、職場で休みをもらうことさえありますよ」

 とても疲れていたり、捜索する余力がなかったりするときでも、面会を希望する、行方不明者の身内に話を聞くだけでも、助けになる。面会の後で彼らは、会って良かった、と心から喜んでくれるという。彼らが、例えば、行方不明者が森で見つかる見込みはないと思い込んでいても、その証言が参考になって、救出できることがある。

 とはいえ、常に成功に終わるとはかぎらない。「すべての人を助けられる訳ではありません。ボランティアの数が足りなかったり、客観的な理由で、捜索を打ち切らざるを得ないこともあります。行方不明者の親族が、私達が無料では捜索しないのだと疑い、怒ることもあります。私達はどなたからもお金はいただかないんですけどね。でも、魔法使いでなければ救出できないようなケースもあります」。こうアンナさんはため息をつく。

 彼女は最近、ノヴォシビルスクで救助隊を創設した。彼女の仕事ぶりを目にした、ロシア非常事態省の地元職員が、プロのレスキュー隊員にならないかと誘ってくれたが、彼女は目下このオファーについて考えつつ、エンジニアとしての仕事を続けている。

 

リーザ・アレルトちゃんの死亡事故

 現在、「リーザ・アレルト」のメンバーは、ロシアの40地域(地方自治体)に展開している。元はといえば、この団体の名になっている幼女、リーザ・アレルトちゃんの捜索から始まった。2010年9月末、当時5歳のリーザちゃんは、ベビーシッターの女性とともに、森に散策に出かけ、道に迷ってしまった。両親は警察に捜索願を出したが、その捜索ぶりはあまり熱心とは言えなかったため、人々は自発的に、援助を買って出て、二人を目撃した可能性のある人を片端から訪ねて回った。ついに森で、二人のものと思しき足跡が見つかる一方、警察にも、捜索犬を使った重点捜索に踏み切らせることができた。やがて、ベビーシッターの遺体が、倒木の下で、ほぼ全裸の状態で発見された。後で判明したところでは、子供の身体を温めようとしていたのだという。捜索は続行され、人々はあたかも人間の鎖のように、しらみつぶしに探した。そして、事件発生から10日目、少女の遺体が見つかった。一匹の犬が最期まで幼児の身体を温めようとしていたが、救えなかったのだという。捜索に当たったボランティアは500人以上に上り、この悲劇を契機に、行方不明者を探すボランティア団体が生まれることになった。彼らのモットーは「“よその子”はいない」

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる