「ユニコーンを二度見た」

シュヴィリョワ氏の作業の様子。机の上には中世のウマの頭蓋骨。この1ヶ月前、リゾート地キスロヴォツク近くで発見された。

シュヴィリョワ氏の作業の様子。机の上には中世のウマの頭蓋骨。この1ヶ月前、リゾート地キスロヴォツク近くで発見された。

=エカテリーナ・フィリッポヴィチ
 ソ連には、さまざまな分野をソ連の科学が牛耳ろうとすることを揶揄するアネグドート(ジョーク)があった。たとえば、「さまざまな国の児童がゾウに関する作文を書くよう課題を出され、ソ連の児童は自分の作文を『ロシア~ゾウの故郷』と題している」と。ロシアにはゾウはいないため、児童は一種の愛国心からこれを書いているにすぎず、それがおかしいのだ。だが、これはまったくのウソというわけではない。ゾウは本当にロシアにいた。ただし、古代であるが。

 そして、マンモスの祖先である南方ゾウの完全な骨が2体展示されている博物館があるのが、ロシアである。生息していたのは260万年~70万年前。北カフカス・スタブロポリの郷土博物館には、古生物学者アンナ・シュヴィリョワ氏のおかげで、貴重な展示物がある。完全な骨は、ここを含めて世界に7体しかない。

「神はカメをのろまにしたけれど、エラスモテリウムをもっとひどくした。エラスモテリウムは大きいけれど、鈍い。小さな脳は巨大な体をうまくコントロールできなかった」とシュヴィリョワ氏。=エカテリーナ・フィリッポヴィチ「神はカメをのろまにしたけれど、エラスモテリウムをもっとひどくした。エラスモテリウムは大きいけれど、鈍い。小さな脳は巨大な体をうまくコントロールできなかった」とシュヴィリョワ氏。=エカテリーナ・フィリッポヴィチ

マンモスの祖先

 博物館なんて退屈でさほど魅力のない場所だと、多くの人は感じているかもしれない。だが、シュヴィリョワ氏に言わせると、スタブロポリ国立郷土博物館での作業は驚きの冒険続きのスリラーのようなもの。シュヴィリョワ氏は今年、80歳になるが、そのうちの55年間を博物館で過ごした。自身の南方ゾウについて、興奮しながらこう話す。

 「南方ゾウはマンモスの祖先。毛に覆われていないだけ。皮膚はとても厚く、敵にスキを与えなかった。粗暴な動物には向かっていかない」

 スタブロポリ郷土博物館が最初にゾウを入手したのは、シュヴィリョワ氏が来る前のことだ。1960年代、スタブロポリ郷土博物館が完全な保存状態にある骨を発見した。市民はゾウにアルヒプとの名前をつけた。

 シュヴィリョワ氏が南方ゾウを発見した時は70歳だった。2007年、大きな病気をして回復の途中にあったが、発掘調査の機会を逃すことはできなかった。

 「事務所に残ったままでいられなかった。同僚は私をなだめようとしていた。ゾウがメスだとわかった時、私の名前をつけてくれた」

 7年で骨を修復し、2015年にゾウのアンナが来館者の目の前で組み立てられた。シュヴィリョワ氏は作業を指揮した。

 「展示室を修復所にした。汚れ、石膏、炎...来館者は観覧場所から作業を見て、助言をしたり、支援を申し出たりしていた。博物館がのんびりした空間だというイメージを壊したかった。職員は、大昔からたまった埃を除去してばかりいるのだから。壊すことができたみたい」

 ゾウのアルヒプとアンナ。=エカテリーナ・フィリッポヴィチ ゾウのアルヒプとアンナ。=エカテリーナ・フィリッポヴィチ

一角獣も

 古代のゾウ以外にも、シュヴィリョワ氏はエラスモテリウムを発見している。シュヴィリョワ氏の大のお気に入りだ。

 エラスモテリウムは巨大なサイの一種。数百万年前に北半球に生息していた。体重4トン以上、体長約5メートル、体高2メートル。

 シュヴィリョワ氏がすでに博物館で勤務していた50年前、スタブロポリ近郊で変わった動物の骨を発見した。額部分に隆起のある頭蓋骨、背中の隆起、長い肋骨。

ゾウのアルヒプの顎=エカテリーナ・フィリッポヴィチゾウのアルヒプの顎=エカテリーナ・フィリッポヴィチ

 「目を輝かせながら発掘現場を走り回った。あの時、発掘現場での仕事の仕方を初めて説明された。骨の近くの砂を1センチ単位で除去していくことが大切だと」とシュヴィリョワ氏。

 大勢の人が大きな関心を示した、真のセンセーションであった。保存状態の優れた物が見つかったことはわかっていたが、何が見つかったのかはずっとわからなかったと、シュヴィリョワ氏。

 「好奇心旺盛な人が集まってきた。ある女性が発掘品の頭部に近づいて、『これは何?』と聞きながら足で頭蓋骨をつついたら、バラバラになってしまった。私たちはあっけにとられた。下顎は無事だったけど。下顎から、骨がロシアの獣とも呼ばれたエラスモテリウムだということがわかった」

 数年後、スタブロポリ郷土博物館はもう1体のエラスモテリウムを見つけた。これがきっかけで、シュヴィリョワ氏は古代の動物に夢中になり、古生物学者になった。1995年にはエラスモテリウムの論文が認められた。

 「エラスモテリウムは私の成功、人生のテーマになった。科学的作業の多くで、エラスモテリウムについて書いた。エラスモテリウムは毛むくじゃらのツノから、神話のユニコーン(一角獣)のモデルと考えられた。人生でユニコーンを一度見たら、ずっと幸せがついてくると言われてる。私はユニコーンを二度見た」とシュヴィリョワ氏。

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