タス通信
一見いいとこだらけ
ロッテルダム・東京間は、スエズ運河を通った場合、2万1100km、北西航路(北アメリカ大陸の北を通る)では1万5900kmだが、北極海航路では1万4100kmにまで短縮される。専門家の試算では、この航路は従来のそれに比べて、輸送時間を40%縮められる。その結果、燃料も、輸送関係者への給与も、運賃も節約できる。また、この北の海域では、アデン湾などとは違って、海賊の脅威がない。
液化天然ガスの生産、消費が盛んになっていることも、北極海航路の意義は増している。パイプラインの有無に関係なく、どの地点からでもこの「青い燃料」を運べるし、パイプラインが通っている地域、国の政情不安にともなうリスクを免れるからだ。
例えば、ロシア北部の液化ガスプロジェクト「ヤマルLNG」は、独立系のガス生産企業「ノヴァテック」社が、フランスのトタル、および中国のCNPC(中国石油天然気集団)と共同開発しており、生産したガスは、北極海航路で運ぶ予定だ。
氷は減っているのか?
とはいえ、これらの潜在的な利点も、重大な欠点を前に霞んでいるのが現状だ。今のところ、北極海航路を自由に航行できるのは年間数ヶ月にすぎない。その結果、2011年にこの航路を利用した船舶は34隻にとどまったが、スエズ運河を通った船は約1万8000隻に上る。
これについて専門家の多くは、地球温暖化と氷の融解を引き合いに出す。氷が融ける結果として、2020年代初めには、年間通して商業船が航行できるようになるというが(運河を通れない大型タンカーも含めて)、果たして本当にそうなのだろうか?
実際は、北極圏を覆う氷の面積は、10年間につき5%ずつしか減っておらず、氷の厚さについても、薄くなるスピードが鈍っており、半世紀前の半分の速度になっている。
因みに、北極圏の海氷の減少速度は、19世紀末以来、一様ではなく、時期によりバラつきがあり、逆に増加している時期も間々ある。例えば、1900~1918年、1938年~1968年には増えている。
現在はというと、1968年以降は減少傾向にあり、観測データによれば、1979年以来、氷の面積が20%減ったことになる。
こうした周期性をみると、それが自然のプロセスであることが分かるが、20世紀の末にはそれが、人為的影響とあいまって著しく加速した。
「減ってはいるが極めてゆっくり」
氷の面積のほか、厚さも減り、古い何年にわたり形成された氷塊が、“1年物”の薄い氷に代わった(もっともこれには別の弊害もあり、ロシアの極地探検隊は、氷上の観測基地に適した場所を見つけるのが難しくなった)。
ロシア水理気象環境モニタリング庁のロシア北極南極研究所の観測データによると、5月10日頃、北極圏の氷の面積は、1302万8600平方kmで、平均よりも5・2%少ない。最も氷が後退していたのは、北極圏西部のグリーンランド海、バレンツ海、カラ海だった。同研究所の専門家によれば、この地域の氷の面積は長年の平均より8・2%少ない。カラ海とチュクチ海では、氷の厚さは10~15 cm薄かったが、ラプテフ海と東シベリア海西部では、平均に近かった。
このテンポで氷が減り続けた場合、ハインリヒ・ベル基金のデータによると、夏の終わりには北極付近まで流氷が後退し、30年後になると、夏季には北極圏の流氷がなくなってしまうという。だが、これは予測に過ぎず、すべての専門家が信じているわけではない。
「北極圏の航行可能な期間は長くなってはいるが、そのテンポはとても遅い。船舶航行の状況が根本的に変わることは、21世紀前半にはないだろう」。WWF(世界自然保護基金)ロシアの「気候と経済」プロジェクトを担当するアレクセイ・ココリン氏は、ロシアNOWにこう述べた。
「北極圏の氷が減少傾向にあるのは確かだが、-40度で晴天なのと-30度で時化ているのと、船にとってはどっちがいいか?将来、時化はより頻繁になるから、航行の条件が改善するとはとても言えない。なるほど、砕氷船も、それよりパワーのない船もより遠くまで行けるようになるのは事実だが」。ココリン氏はそう認めつつ、北極圏の氷の融ける速度は、見かけよりもずっと遅いと述べた。
氷は減って波高し
ココリン氏の言葉は、ハインリヒ・ベル基金のデータでも、またロシア北極南極研究所の専門家の評価でも裏づけられる。
以上まとめると、氷の面積と厚さの減少は、実際、北極海航路にとって追い風だが、これには別の反面もあり、時化が頻繁になり、波が高まり、氷塊が割れて氷山の数が増えることを念頭に置かねばならない…。
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