ともえ戦の様相

 ロシアで禁止されているイスラム国(IS)のテロリストらは、敗北を喫しており、彼らの支配地域は、狭まりつつある。しかし、ISに対する勝利について語るのは、時期尚早であり、シリアでISに対抗する勢力同士が、交戦の寸前にある。ロシアは、ISに対する戦争の共通のラインを定めるべく、米国、トルコ、クルド人勢力との合意を試みている。
Iraqi special forces
イラク軍の特殊部隊の兵士。モスル、イラク、 2017年3月2日=  ロイター通信

 イラクのテレビ局アルスマリア(Al Sumaria)の報道によれば、テロ組織ISの指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーは、先日「告別の声明」を発表した。その中で、同指導者は、あたかもイラクのモスル(同市ではISに対してイラク軍が米国の支援を受けて戦っている)でのISの敗北を認め、味方に対して同市から逃れるかシャヒード(殉教者)として戦死するよう呼びかけた。

 アル=バグダーディーの「声明」は、どうも怪しく、専門家らは、ISが自ら敗北を認めるようなことはなく、イラク当局がテロリストらの士気を挫くために偽情報をでっちあげたに違いない、と考えている。しかし、テロの「ハリファト(イスラム帝国)」における事態は、まさに深刻である。

対IS作戦中に行われた空爆空爆で立ち上る煙。モスル、イラク、2017年3月1日=ロイター通信対IS作戦中に行われた空爆空爆で立ち上る煙。モスル、イラク、2017年3月1日=ロイター通信

二つの戦線での戦争

 イラク軍は、西側の同盟国とともに、テロリストらを彼らの「首都」モスルから締め出しつつある。1月、イラク政府は、同市の東部を支配下に置いた。現在、同市の西部をめぐる戦闘が行われており、そこでは、政府軍が、徐々にではあるものの次々と地区を奪還しつつある。

 これと併行して、ISは、シリアにおいても敗北を喫している。2月23日には、トルコ軍が、シリア北部の都市アル=バーブから武装勢力を排除し、3月2日には、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相がウラジーミル・プーチン大統領に報告したところでは、シリア軍が、ロシア航空宇宙軍の支援のもとで、ユネスコ世界遺産のあるパルミラ(同市は2016年12月からISの支配下にあった)を奪還した。

 

後退しつつも降伏はせず

 当局や専門家らは、シリアおよびイラクでの敗北にもかかわらず、テロリストらの潰滅について語るのは、時期尚早である、と考えている。たとえば、イラクおよびシリアでの国際的なIS掃討作戦を指揮するスティーブン・タウンゼンド中将は、モスルだけでもまだ2000人以上のテロリストが残存しており、有志連合は熾烈な戦闘を余儀なくされる、と述べた。

イスラム国の旗を引きずり下ろしたイラク治安部隊、モスル、2017年2月27日=ロイター通信イスラム国の旗を引きずり下ろしたイラク治安部隊、モスル、2017年2月27日=ロイター通信 ロシア国立人文大学・現代東洋学講座のグリゴリー・コサチ教授は、「私は、ISの大勢のメンバーらが支配地域を後にして敗走しているとの[イラクのメディアの]報道を信じていない」とロシアNOWに語った。同氏の情報によれば、戦闘員らは、市街戦に長けており、彼らは、政府軍が支配下に置いた地区においてさえ、地下の隧道を利用して、攻め入る敵に不意打ちを食らわす。コサチ氏は、「モスルでは、熾烈な戦闘が行われており、ラッカ[シリアにおけるISの「首都」]でも、強襲が始まると同じことが起きる」と述べる。

 

シリア北部での混乱

 モスルが陥落すると、シリア東部のラッカが、戦闘員らの主な牙城となる。ISを潰滅するには、ラッカを強襲しなくてはならないが、現在、それを行うものはいない。ラッカへは、ISに対してトルコ軍および親クルドのシリア民主軍(SDF)が戦っているシリアの北部地区からが最も攻め入りやすいが、現在、この両軍は、互いの紛争へより多くの力を注いでいる。

 トルコ軍は、公式にはISに対抗するために、2016年8月、シリアへ進軍したが、専門家らは、シリア北部でのクルド人の自治の創出を阻むことがトルコの真の狙いである点を、再三、指摘している。シリア北部からISが締め出されるや否や、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、トルコ軍の次の目標となるのはラッカではなくSDFの支配下にあるマンビジであると確言した。SDFで枢要な役割を演じているクルド人らは、トルコ人をテロリストらの支援者と見なしており、戦う構えを見せている。

 なお、SDFで枢要な役割を演じているシリアのクルド人らは、米国の支援を受けており、2月28日、マンビジ付近にアメリカの特殊部隊が配備されていることが判明した。トルコをクルド人とばかりでなく米国との衝突の瀬戸際にも立たせる緊張した状況が生じている。

 

和解を働きかけるロシア

 イノベーション発展研究所・中東紛争研究課のアントン・マルダソフ主任は、ロシアが「三つの火中」という非常に難しい立場に置かれている点を指摘している。ロシアは、同時に、バッシャール・アサド政権を支持し、トルコとの良好な関係を維持し、シリア北部でのクルド人に対するトルコの戦争を阻止しようとしている。

 マルダソフ氏は、3月2日付のSDFの声明に注意を向けている。その声明によると、クルド人勢力は、シリア軍の部隊がマンビジとトルコ軍の間の「バッファー(緩衝装置)」となることで、ロシアと合意した。マルダソフ氏によれば、ロシアは、米国とともに、マンビジのステータス(地位)に関して折り合いをつけてトルコ軍の力をラッカの強襲へ振り向けるために、トルコ軍とクルド人勢力を引き離そうとしている。

 マルダソフ氏は、目下の状況は不透明であるとし、「シリアについては、もちろん、3月9日のモスクワでのプーチン氏とエルドアン氏の会談で協議されよう。その会談の結果が明らかになるまで、結論は導きがたい」とロシアNOWに語った。同氏によれば、米国の新政権の姿勢も、今のところ不明であり、ドナルド・トランプ米大統領は、国防総省によって同大統領に提出されたISとの闘いの戦略についての報告書に関連した声明を今のところ何ら行なっていない。いずれにせよ、「ハリファト」の潰滅は、同大統領の多数の敵が自分たちの争いを解決してテロリズムとの戦争へ全力を傾けることができるときまで、お預けである。

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