ASEANへの初めての現実的な進出

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 「ロシア・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議」がロシア南部ソチで5月19~20日に開催され、ASEAN10ヶ国の首脳が結集した。ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアのアジア重視を示す策として、57件のASEANとの技術プロジェクトからなるロードマップを発表した。専門家は、ソチのサミットの成功をもってしても、中国とアメリカの東南アジアでの経済的存在感と比べるとロシアは目立たない、と考える。

 「我々は経済関係の今後の発展にさらなる弾みを与えることができる。ロシア側は、ASEANとの新たな技術的、革新的提携の構築に向けた、57件の技術プロジェクトからなるロードマップを作成した」と、プーチン大統領は20日、ロシア・ASEANサミットで述べた。

 「ロシア国際問題評議会」メディア・政府関係担当のアントン・ツヴェトフ氏は、サミットは「少なくともロシアの設定した課題の実施の面で」成功したと考えている。ロシアは、東南アジア問題への関心を改めて確認し、その関心をもとに行動しようとしていることを示したという。

 「ASEANにとって、このサミットは、バランスのとれた、独立したグローバルな立ち位置の表明。この華やかな場面をひっくり返せば、実際的な協力は大きく欠如している。しかしながら、ロシアとASEANの首脳は高い期待を抱きながら、経済の条件、ともに活動できる組織力を向上させたいと思っているのでは」とツヴェトフ氏。

 「カーネギー国際平和財団モスクワ・センター」アジア太平洋プログラムのロシア代表であるアレクサンドル・ガブエフ氏は、貿易規模を素早く拡大させ、政治的結束を深めたいというロシアの期待は非現実的だと話す。中国は、東南アジアの大きな中国人社会を通じて、この地域との強大な貿易および文化の結束を確立している。一方で、ロシアの東南アジアとの貿易規模は微々たるものだ(2015年の214億ドル≒2兆3540億円はASEANの貿易額全体の1%以下)。ロシアは東南アジアの一部の国と強いつながりを持ってはいるが、一貫した戦略的な取り組みを欠いているのだという。

 

構想は大きく

 ASEANにおけるロシアの最大の貿易相手国はベトナム。2015年の両国の貿易額は27億ドル(約2970億円)であった。タイは第2位で、昨年の貿易額は20億ドル(約2200億円)。比較的小さな貿易規模は、ロシアの企業を野心的な目標の設定、壮大な構想には向けさせない。

 「ロシア輸出センター」の関係者は、ロシアには今後5年でASEANの輸入の10%を占める力があると話す。ロシアの技術品および非商品などを、ASEANに輸出拡大できる前提条件はそろっているという。

 「モスクワ国際関係大学」ASEANセンターのヴィクトル・スムスキー・センター長はこう話す。「これはしっかり作成されたプランというより希望のように響くが、私の知る限り、現実離れしたものではない」

 

貿易協定

 「地政学的な視覚効果は強かった。ソチはASEAN10ヶ国の首脳の議長役を果たした。そして首脳の多くがロシア大統領との二国間会談を行い、ロシアの他の都市を訪問し、たくさんの協定に署名を行った。これらすべてが、ロシアは孤立していない、多様な外交政策を用意している、というアピールに合致した」とツヴェトフ氏。

 スムスキー・センター長によると、今回のサミットは入念に準備されており、「エネルギー、貿易、軍事、文化の協定が伴うという、典型とは言えない流れがあった」という。サミットの前に一部の人が表明していた、単なる公式集会になるのでは、との恐れは、間違いだったことが証明されたという。

 「もっと重要なのは、将来的な経済協力の形式についても話し合われたこと。ASEAN、上海協力機構(SCO)、ユーラシア経済連合(EEU)をどうやって一緒に活動させるかについても協議された」とスムスキー・センター長。

 ロシアの究極の目標は、ASEAN・EEU自由貿易協定が生まれることであり、これを実現するために、ロシアはASEANの個々の国とEEUの自由貿易協定の締結について計画している。

 

二国間契約

 ASEANとロシアの多国間協定は結ばれなかったが、加盟国との二国間契約が結ばれた。

 中でもサミットに先立って、また開催中に結ばれた規模の大きな協定は、酪農業界の2件の取り引き。ベトナムの投資家が、モスクワに巨大な牛乳加工工場を建設する。ベトナムのグエン・スアン・フック首相は、この27億ドル(約2970憶円)規模のプロジェクトの立ち上げ式典に出席した。

 ロシアの石油会社「ロスネフチ」は、シンガポールの「吉宝企業」およびノルウェーの掘削機器会社「MHワース」との合弁企業を設立することで合意。さらに、インドネシアに投資総額130億ドル(約1兆4300億円)の石油精製所を建設する計画を発表した。

 

防衛協力協定のみだが

 軍需産業はロシアの財産の一つであり、プーチン大統領とASEAN首脳のどの会談でも議題になっていたが、大きな進展はなかった。

 ロシアはカンボジア、インドネシア、ブルネイと防衛協力協定を結んだが、期待の高かった2件の主要な契約、すなわちタイによるT-90戦車の購入とインドネシアによるSu-35スーパーフランカーの購入の契約は結ばれなかった。

 兵器の輸出入契約はなかったが、スムスキー・センター長によれば、防衛協力についての協議が行われた事実が、ASEANの対ロシア関係の真剣さを示しているという。ASEANは、ロシアを孤立させようというアメリカからの圧力に屈しないことを示したと、スムスキー・センター長は話す。

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