大統領選前倒し案の裏には何が

セルゲイ・ピヴォヴァロフ撮影/ロシア通信

セルゲイ・ピヴォヴァロフ撮影/ロシア通信

ロシアで発言力のあるアレクセイ・クドリン元財務相が18日、大統領選の前倒しを提案した。議会政党の党首らは、案を支持していない。この提案は何を意味しているのか。専門家の意見はわかれている。

 “自由主義改革の支持者”との定評のあるクドリン氏(2000年から2011年までロシア連邦財務省の大臣を務めた)は、第19回「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)」(18~20日)で、「新たな改革プログラム」を実現させるために、大統領選を前倒しすることを提案した。「新たな信任」を得た方が、国家元首は楽に改革を行えるのだという。

 ロシア下院(国家会議)選が前倒しされる可能性について触れながらの、クドリン氏の提案である。下院の選挙を2016年12月から同年9月に前倒しする法案は、19日の下院の第1読会で承認されている。これを支持したのはロシア連邦共産党以外の全政党。統一地方選と同じ日に下院選を実施することの利点を、法案作成者は強調している。

 

スターリン・モデルの再開?

 大統領選前倒しの可能性については、経済学者のエヴゲニー・ゴントマヘル氏が先に、ロシアの経済紙「ヴェドモスチ」の論文で書いている。ゴントマヘル氏はクドリン氏率いる市民団体「市民イニシアチブ委員会」(リベラル系シンクタンク)の委員。クレムリンをこのようなシナリオに動かし得る理由としてゴントマヘル氏が挙げるのは、今後の国内の社会・経済状況の悪化。次の大統領選は2018年に予定されているが、苦戦を強いられるかもしれない。ゴントマヘル氏の考えでは、前倒し選挙でウラジーミル・プーチン大統領が再選し、新しい信任を国家発展の「国民動員シナリオ」の実現に活用する。つまりスターリンの現代化案に近いモデルが始まるというわけだ。

 ロシアの議会政党の関係者はクドリン氏の提案を支持していない。与党「統一ロシア」総評議会幹部会のセルゲイ・ネヴェロフ書記は、「この試みが社会に一定の不安定化をもたらす」として、現状に合わないものだと述べた。「ロシア連邦共産党」は、前倒しの必要性を感じないとの見解を示している。ウラジーミル・ジリノフスキー党首率いる極右「ロシア自由民主党」や、左派野党「公正ロシア」も同様。

 ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は特に踏み込んだコメントはせず、「これは新しい声明。政治界や経済界が他のすべてのアイデアと一緒に、このアイデアについても話し合うのではないか」と述べた。また、クドリン氏がプーチン大統領とこの案について話したかはわからない、とも述べた。

 

「観測気球」

 独立系「政治工学センター」のイーゴリ・ブーニン所長は、ペスコフ報道官の言葉に疑問を示す。クドリン氏の提言は“世論への打診”の試みであり、プーチン大統領に合意を得たのではないかという。「これがクドリン氏の個人的な声明だとは思わない。大統領と何らかの形で話をし、提言の許可をもらったのではないか」。ブーニン所長も、ゴントマヘル氏と同様、大統領選を前倒しすることで、ちょうど2018年と所長の予測している経済危機のピークと、時期をずらすことができると考える。

 同時に、ブーニン所長は、このようなシナリオが実現された場合、プーチン大統領が実際に大規模な改革に乗り出す可能性があると考える。それは「動員計画」ではなく、クドリン氏も述べたリベラルなモデルになるという。「ポスト全体主義」の現代ロシアの社会では、個々が精神的に離れ離れになっており、昔のようなイデオロギーはないため、スターリン式動員を導入しようとしても無理が生じるという。同様に実現の可能性が高いのが「惰性のシナリオ」である。プーチン大統領の再選を確保することのみを目的として、大統領選の前倒しを行うというもの。ブーニン所長によると、このような道筋には、特に法的障害はなさそうだという。前倒しするには、連邦法の一つを改正する必要があるが、その実施に十分な支持がプーチン大統領にはある。

 

「クドリン氏のアドリブ」

大統領選挙法

連邦法「ロシア連邦大統領選挙について」によると、大統領の義務の遂行を期限前に停止した者は、「その者による権限遂行の期限前停止に関連して行われる選挙に立候補できない」。だが専門家は、親クレムリン派閥が法の改正への賛成票を簡単に集められるほど、議会の“親大統領与党”「統一ロシア」の立場は強い、と話す。

 一方で、まったく異なる意見の専門家もいる。政府支持派である、政治・経済情報会社のドミトリー・オルロフ最高責任者は、クドリン氏の提言はアドリブで、「ロシアの政治エリートの統一の立場ではなく、ロシア行政府の幹部には好意的に受け止められないのではないか」と話す。クドリン氏は自身の「市民イニシアチブ委員会」を、意思決定プロセスに影響を与えることのできる政治主体のように見せようとしているが、実際にはそのような可能性を持ってはいない、とオルロフ最高責任者は考える。「このような決定(大統領選の前倒し)が行われる可能性は極めて小さい」とオルロフ最高責任者。

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