画像提供:コンスタンティン・マレル
冷戦下で画期的な条約となったINF条約は、冷戦終結後に多くの点でその地位を失った。今日、たとえウクライナ情勢があったとしても、ヨーロッパがアメリカとロシアの直接的な軍事衝突の舞台になるとは想像しがたい。また、二国間条約であるINF条約は、他の国による中距離攻撃システムの開発を制限するものではない。
INF条約をめぐる国際情勢の変化
ロシアもアメリカも、中距離攻撃システム撤廃の重要性が日々低下していることを認識している。特にロシア側だ。このような技術を、隣国の中国、イラン、北朝鮮が積極的に開発しているのである。ロシアでは数年前、INF条約が現代の条件において、どれほど国益に合っているのかについて、活発な議論が交わされた。軍人は離脱の可能性にまで言及していた。
しかしながら、ここ数年、INF条約をめぐる情報を伝えているのはアメリカである。アメリカのマスコミは2013年末、アメリカ政府がロシアのINF条約違反を疑っているという情報を初めて伝えた。アメリカのクレームの詳細は明らかになっていない。専門家は、2種類の有望な軍備、弾道ミサイル「RS-26ルベシュ」と巡航ミサイル「R-500」の話ではないかと推測する。RS-26ルベシュの最大距離はINFに定められる上限をこえているため、形式上は条約に該当しない。しかしながら、試験プログラムの特異性(ミサイルが距離5500キロ以下の試験に成功した)によって、ミサイルの主な用途は中距離のターゲットの撃破だと仮定することが可能。 R-500については、その最大距離に対する疑問で、INF条約の下限500キロを超えると仮定することのできるよりどころがある。
アメリカから、ロシアがINF条約の条件に違反しているとの申し立てがあった時、ロシア政府は常に、積極的に反応してきた。今回の件も例外ではなく、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、アメリカの抗議に具体性がないと、アメリカをたしなめている。アメリカがいまだに説得力のある証拠を提示していないという事実は、抗議に必要なテレメトリデータ(電波で送信されてくる衛星やロケットに関する情報)をアメリカが持っていないということを証明している。
もし中・短距離ミサイルのクラスを復活させたら…
とはいえ、ロシア側は、中・短距離ミサイルのクラスを復活させようとするあらゆる試みが、たとえINF条約の条件に正式に準拠していたとしても、危険であることを理解すべきである。INF条約には有効期限がないが、第15条はどちらかの当事者の最重要利益が脅威にさらされた場合の離脱を許している。ロシアのあらゆる中・短距離ミサイルの復元の試みは、たとえINF条約の文言に準拠していたとしても、離脱を含めたアメリカ側からの対抗措置をまねくことになる。
INF条約の解消は何よりも、ロシアの安全保障への打撃になる。このようなシナリオにおいて、アメリカはヨーロッパへの中・短距離ミサイル再配備の可能性を手に入れるからだ。理論的には、アメリカは冷戦時代のように西ヨーロッパ諸国に配備するだけでなく、新たな北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領土に配備することもできる。このような配備によって、ロシアの戦略的設備までのミサイルの着弾時間を、反撃阻止の潜在性を整えた上で、数分にまで短縮することができる。ロシアはこのような挑戦に十分に対応できるような資源を持っておらず、対抗システムを創設するのに大変な労力と資金を費やさなければならない。
一方で、現在のロシアとアメリカの関係の冷え込みをもってしても、このような緊張のスパイラルは想像しがたい。これまでずっとその信頼性の高さで際立っていた「軍縮」チャネルを介して、アメリカがロシアを議論に引き入れようとしているだけ、とも考えられる。いずれにせよ、INF条約の運命は今日、それに従って廃棄したミサイルのクラスを復活させる決定をロシアが行ったか否かに、まず依存する。そのような決定がなされていたのであれば、アメリカは十分な証拠を得た上で離脱する。なされていないのであれば、軍備管理分野での対話を通じた親密な交流を確立しようとする試みは、アメリカがロシアとの関係を正常化させようとしていることのさらなる証である。
中距離核戦力(INF)全廃条約
*アレクサンドル・チェコフ氏は、国際関係大学国際関係・外交政策学部教授、「外交政策」研究機関アナリスト。
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