アレクセイ・ヨルスチ
世界の主要な国はつい最近まで、「ソフト・パワー」を好んでいたように見えた。この点で優位に立っていたのは欧米諸国ではなかろうか。最初にソフト・パワーのツールを備えた国である。ソフト・パワーを提唱したアメリカの政治学者ジョセフ・ナイ氏は、「力や金銭ではなく、魅力で望むものを得る能力」と定義している。
例えば、欧州連合(EU)の社会的モデルの魅力が、ウクライナで2度目の「独立広場」での運動「欧州広場」を発生させたことに、疑いの余地はない。しかしながら、国内の対立の防止には寄与しなかった。
ウクライナ政府を力ずくで転覆させた結果、政治、社会、マスコミを、民族色の強いパワーが支配するようになった。ウクライナ国内の大きなロシア語コミュニティは、自分たちの民族・文化的アイデンティティ、ロシアとの従来の関係への脅威の高まりを感じた。
残念なことに、ウクライナ国外の世論には、この国で起きている民族・文化的現実の完全なるイメージがともなっていない。これはソフト・パワーとはどのようなものなのかを、完全に把握しきれていないこととも関係している。ソフト・パワーはEU諸国を中心とした、国、社会の魅力のアピールばかりに使われてきた。
ロシア的ソフト・パワー
イギリス系コンサルティング会社「アーンスト・アンド・ヤング」は、モスクワの「スコルコボ」急成長市場研究所と共同で、急成長市場の「ソフト・パワー指標」に関する興味深い調査を行った。13項目の基準で指標が計算されているもので、項目にはフォーチュン誌のランキングにおけるロシア企業、移民および旅行客の流入、CO2排出、タイムズ誌の「世界でもっとも影響力のある100人」にランクインしたロシア人の人数、タイムズ・ハイアー・エデュケーション誌の世界大学ランキングにおけるロシアの大学のステータス、五輪メダルの獲得数などがある。
ロシアの指標が高かった要因として、観光、五輪メダル以外に、CIS諸国からを含む移民があげられていた。国連のこの指標で、1100万人の外国人が暮らすロシアが、アメリカに次いで世界第2位であることは、ほとんど知られていない。ロシアはドイツ、イギリス、フランスよりも上位である。
困難かつ複雑な現象である国家のソフト・パワーは、すぐにはわかりにくい。だが例えば、ロシア語は最近、世界のインターネットにおける人気言語ランキングで、ドイツ語を抜いて、第2位に浮上した(第1位は英語)。
ロシアが他の国の利益に反するようなソフト・パワーの使い方をするのではないか、といった懸念も存在する。このような意見が特に多かったのは、「ロシア世界」のコンセプトに対して。一部の国ではこれが、外国におけるロシアの利益促進、また外国に対する抑圧的行動のために、ロシア語系同胞を活用する脅威と見なされた。
しかしながら、ロシア語系同胞を、隣国に対するロシアの「帝国主義」実現のための口実と見なすことは、正しくない。実際には同胞は口実ではなく、目標である。民族的に自国に関連する人々について心配する権利がロシアにはある。これはロシア人に限ったことではない。
海外の“同胞”を守る
海外の同胞を守る路線は、ロシア国内のロシア人だけでなく、国外のロシア人からも承認されている。これは民族主義というよりも、愛国主義である。「ロシア世界」の概念とは、偏狭な民族主義ではなく、文化現象である。
我々が同胞と呼ぶのは、誰よりも、居住先の国の社会に融合し、その国を自分たちの母国と考え、その国の発展および成功に関心を持っている人々である。同胞は基本的な国際条約によって定められている人権以上の人権を求めない。その個人的な、極めて普通の関心とは、その居住国とロシアが良好な関係を維持することである。
ソフト・パワーのツールのほぼすべてが、この目標に向けられるべきであると思う。現在の難局とは、何よりも、相互不理解の危機である。海外のマスコミや外国の政治家の演説では、ロシアとその指導者の行動の動機に関するさまざまな憶測が出てくる。これらをロシア人が見聞きすると、現実離れの著しさに驚き、また失望する。ここから、ロシア人にとって突拍子もない、しかしながらヨーロッパ人にとってあり得る恐怖、ロシアが自分たちの支配下に東ヨーロッパを再び置くだとか、隣国を攻撃するだとかいった恐怖が生まれるのである。
対話がない、他の国や他の民族の利益を尊重せず、注目もしていない、他の国や他の民族の動機および価値を理解していないなど、これらすべてが、すぐには発生しなくとも、発生不可避な危機の種子である。危機は避けられないものではないと信じている。しかしながら、避けるためには、新たな「鉄のカーテン」(ウクライナ政府の計画のような)を建設するのではなく、人々の意識の中にある古いカーテンを壊す必要がある。
コンスタンチン・コサチョフ、外交官、ロシア連邦独立国家共同体・在外同胞問題・国際人文協力局局長
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