AP通信撮影
争点の価格
最後まで主な争点となっていたのは、まさに価格だった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、中国向けのガスの価格は石油および石油製品の価格と連動するとし、「価格の設定は、わが国の他の契約や欧州のバイヤーとの場合と同様、石油および石油製品と連動する」と説明した。一方、ロシアのアレクサンドル・ノヴァク・エネルギー相は、契約調印後、中国が前払い金を支払うことも考えられ、その額は250億ドルとなりうる、と述べた。
中国へのガスの輸出はパイプライン「シベリアの力」の支線を経由する東ルートで行われる予定で、年間380億立方メートルのガスの供給が2018年に開始される見通しで、供給量は600億立方メートルにまで増加する可能性がある。アリパリ社のアナリストであるアンナ・コーコレワ氏は、こう語る。「ロシアの天然ガスはこれまで中国へは輸出されておらず、今年になってようやく液化ガスのわずかな供給が始まったところですから、今回の契約調印によってロシアには新たな市場が開かれたと言えましょう」。
今回の調印を市場はおおむね好感したが、専門家らは、一千立方メートルあたり平均350ドルという妥結額は、さまざまな筋の情報によれば380ドル前後を予想していた「ガスプロム」の期待を裏切る形となった、とみなしている。ちなみに、欧州のバイヤーは、ロシア産ガスに対してそれだけの代金を支払っており、こうしたディスカウントは、ガスの供給源を多様化したい欧州の思惑や政治的な不安定性に起因するものとも考えられる。インヴェストカフェのアナリストであるグリゴリー・ビルグ氏によれば、中国では、ガスの国内価格と輸入価格の差が補助金に反映されるため、国内価格も重要な役割を演じている。ロシア科学アカデミー・エネルギー経済研究所・石油ガス複合体課のタチアナ・ミートロワ課長は、こう語る。「今回の契約は、許容価格の最低水準で調印されたものと思われます。これは、そもそも利潤の最大化というよりは販売市場の多様化ならびに東シベリアの地域的発展およびロシアの工業にとっての相乗効果を目的としたプロジェクトなのです」。
多難なプロジェクト
ヨーロピアン・ガス・アナリシスのミハイル・コルチェムキン氏によれば、中国へのガスの輸出が黒字に転じるのは、2020年半ば頃となりうる。しかし、おそらく、これは、ロシアが西側からの重い外交圧力に晒されるなかで「世紀の契約」に調印することによって手に入れた大きな政治的配当に見合うものと言えよう。とはいえ、パイプライン「シベリアの力」への資金供与のためにはガスの国内価格を輸出の場合と同様の収益性をもたらす水準にまで速やかに引き上げることが必要なため、ロシアのガスの消費者の負担は増すことになる。
露中間の経済的協働は、単なるガスの輸出入に留まらず、今回の訪問の過程で、ウラジーミル・プーチン大統領は、新たな契約に基づいて中国へガスを供給する産地を対象とした有用鉱物採取税を免除することを提案した。これについては、ロシアの別の国営石油ガス会社「ロスネフチ」のイーゴリ・セーチン社長が、交渉後に明らかにした。東シベリアのガスプロムの産地を対象とした有用鉱物採取税の税率は、すでに一千立方メートルあたり約80ルーブルにまで引き下げられていた。セーチン氏は、「きょう大統領自らこの問題を取り上げたということは、私たちが最終合意に近づいていることを意味します。ガスプロムとCNSCの成功を祈ります」と述べた。しかし、同氏によれば、中国側も、プーチン大統領の提案に呼応する形で、「消費者への考えられるアクセスを伴う中国市場における分配網へのガスプロムの参加に関する提案を行ってもよかった」。セーチン氏によれば、中国とのガスに関する契約は「とうにその機が熟していた」。パイプライン「シベリアの力」を経由する中国へのガスの輸出に参入する予定の「ロスネフチ」も、新たな税負担軽減の受益者となりえ、同社は、自ら傘下に収める東シベリアおよび極東の産地におけるガス採取の見通しをすでにエネルギー省に提示している。
幹線パイプラインによる中国へのガスの輸出に代わるものとして、プロジェクト「ウラジオストクLNG」の枠内での液化天然ガス生産工場の建設およびLNGの中国への輸出が考えられ、「ガスプロム」は、このプロジェクトに中国企業を誘致しようとしている。しかし、ミハイル・コルチェムキン氏の考えでは、「ウラジオストクLNG」は、LNGの原価がアジア太平洋地域における価格を上回る可能性があるため、大きなリスクを伴うプロジェクトである。しかも、ノヴァテック社が、プロジェクト「ヤマルLNG」に基づいて年間300万トンの液化天然ガスを20年にわたって供給する契約に中国のCNSCとすでに調印している。中国のLNG市場への進出はロシアにとって重要だが、オーストラリアやカタールといったライバルとの価格競争は避けられない、というのが、専門家らの一致した意見である。
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