9人のフィギュアスケーター

ドナト・ソローキン/タス通信
 フィギュアスケート界の上位選手たちは、ついにウォーミングアップから臨戦態勢へと移行した。現在、ISU(国際スケート連盟)が承認するシリーズ戦「グランプリシリーズ」の最中で、6大会のうちの3大会がすでに終了した。現在のフィギュア界のランキングにおいて、ロシアの選手たちに何が期待できるのか?

 「すべてにおいて困難」――現在のロシアフィギュア界の状況を表すのにこれほど最適なステータス表示はない。すべてにおいて良好と言えるのは女子シングルのみで、女子選手だけを見れば、現在ロシアには世界で戦える選手が5人もいる。一方、男子シングルはまったく反対で、世界選手権でメダルを狙える選手は事実上ひとりも残っていない状況だ。

 ペアも停滞期に突入した。2度にわたりオリンピックチャンピオンの座についたタチアナ・ヴォロソジャル/マクシム・トランコフ組は引退間近。現在ヴォロソジャル選手は妊娠しており、2月に出産予定だという。一方、もう1組のペア、クセニア・ストルボワ/フョードル・クリモフ組は故障に苦しめられており、現在、ストルボワ選手が怪我の治療中だ。

 アイスダンスはといえば、次のオリンピックに向けて最大の期待がかかっていたエレーナ・イリイヌィフ/ニキータ・カツァラポフ組がペアを解消した後、メダルに手が届くペアはいなくなった。

 しかしながら、単に数字だけのランキングはときに新星の誕生によって思いがけず大きく入れ替わることもある。またすでに名のある選手が驚くような結果を出すこともある。いずれにしてもそれぞれの選手にそれぞれの持ち味がある。

 

1. エフゲニア・メドベージェワ 世界選手権優勝、ヨーロッパ選手権優勝(2016)

エフゲニア・メドベージェワ=ニナ・ゾチナ/ロシア通信エフゲニア・メドベージェワ=ニナ・ゾチナ/ロシア通信

持ち味:音楽性、高難度技の安定性

 ヨーロッパ王者であり世界王者でもあるメドベージェワ選手は、現在ロシアチームの絶対的リーダーである。エテリ・トゥトベリゼコーチに師事するメドベージェワ選手は、最近行われたグランプリシリーズ・カナダ大会で、技術面においても芸術面においてもほぼ完璧といえる演技を披露した。振付師のイリヤ・アベルブフがメドベージェワ選手のために特別に作り上げた新たなプログラムは、腕利きの職人が作ったオーダーメイドのドレスのようにメドベージェワ選手にマッチしている。

 

2.エリザヴェータ・トゥクタミシェワ 世界選手権優勝(2015)

エリザヴェータ・トゥクタミシェワ=ニナ・ゾチナ/ロシア通信エリザヴェータ・トゥクタミシェワ=ニナ・ゾチナ/ロシア通信

持ち味:多彩なジャンプ

 昨シーズンは不調に泣いたトゥクタミシェワ選手だが、徐々に以前のコンディションを取り戻しつつある。とはいえ、有名なアレクセイ・ミーシンをコーチとするトゥクタミシェワ選手、グランプリシリーズ・カナダ大会の演技ではミスが目立った。しかしその原因は恐らく準備不足というよりは、単に演技を凝り過ぎたことによるものだろう。ミーシン・コーチは大会を振り返り、「我々は本当につまらないことで負ける」とコメントしている。滑り込みが十分でないことが影響している可能性はある。

トゥクタミシェワ選手はシーズン始めに滑り込めば滑り込むほど、良い結果を出すことで知られる。世界選手権を制した一昨年と同様、今年もできるだけ多くの大会に出場するという。

 

3. アンナ・ポゴリラヤ 世界選手権3位(2016)

アンナ・ポゴリラヤ=セルゲイ・ファデイチェフ/タス通信アンナ・ポゴリラヤ=セルゲイ・ファデイチェフ/タス通信

持ち味:高難度の多彩なジャンプ、みなぎる闘志

 18歳のポゴリラヤ選手は成長に伴う体型変化による問題をうまく切り抜け、技術面での影響を受けずに済んだ。しかしながらシーズン前にフィンランドで開催された国際大会ではミスを連発、カナダのケイトリン・オズモンド選手、日本の浅田真央選手に及ばず3位に終わった。一方、グランプリシリーズ、ロシア大会では持ち前の美しさを十分に感じさせる素晴らしい演技で優勝を果たした。

 

4. ミハイル・コリャダ ロシア選手権2位(2016)

持ち味:ジャンプの素養の高さ、強い精神力

ミハイル・コリャダ=ウラジーミル・ペスニャ/ロシア通信ミハイル・コリャダ=ウラジーミル・ペスニャ/ロシア通信

 2016年の世界選手権で4位に入った21歳のコリャダ選手は現在ロシア男子シングルでもっとも期待されるエース的存在。安定したジャンプという持ち味に加え、非常に魅力的できらりと光るセンスの持ち主でもある。コリャダ選手のプログラムには惹き込まれるものがある。

 

5. マクシム・コフトゥン ヨーロッパ選手権入賞(2015、2016)

マクシム・コフトゥン=AP通信マクシム・コフトゥン=AP通信

持ち味:4回転ジャンプを含む高難度の多彩なジャンプ

 コリャダ選手と同い年のコフトゥン選手。2014年のソチ・オリンピックを前にコーチ陣と連盟関係者らによってチャンピオンに仕立てあげられたコフトゥン選手は、その精神的な重圧に耐えることができず、安定性を完全に失うこととなった。個々のジャンプの技術そのものは高いが、ショートプログラムとフリーの両方のプログラムで、予定されたすべてのジャンプを成功させるという課題をなかなかこなすことができないのが難点。

 

6.7. エフゲニア・タラソワ/ウラジーミル・モロゾフ ヨーロッパ選手権3位(2015、2016)

エフゲニア・タラソワ/ウラジーミル・モロゾフ=ニナ・ゾチナ/ロシア通信エフゲニア・タラソワ/ウラジーミル・モロゾフ=ニナ・ゾチナ/ロシア通信

魅力:4回転ツイストリフト

 ジュニアからシニアに上がってきたペアのタラソワ/モロゾフ組からは、今のところどこか奇妙な印象を受ける。今シーズンの演技を見る限り、コーチ陣はこのペアに「北米的」な冷めた美学(芸術性を追求しない、純粋なスポーツとしてのフィギュアスケート)を植えつけているように感じられる。もっとも、予定している構成要素をすべてこなすことができれば、こうしたスタイルの選択が正当化される可能性は十分にあるわけだが、グランプリシリーズ・アメリカ大会のフリー演技ではこのレベルの選手としては許されない回数のミスを犯した。

 

8.9. 川口悠子/アレクサンドル・スミルノフ ヨーロッパ選手権で2度優勝(2010、2015)

川口悠子/アレクサンドル・スミルノフ=Getty Images川口悠子/アレクサンドル・スミルノフ=Getty Images

持ち味:4回転スロージャンプ

 すでにベテランの域に達する2人は現在もロシア代表に名を連ねているもの、理想的なコンディションにあるとはいえない。川口選手はアキレス腱断裂後、半年間リンクを離れていたが、スミルノフ選手はこの間ずっと自身のトレーニングよりも主に他選手のコーチとしての活動に重きを置いていた。

 カナダ大会では得意の叙情的な演技を見せたが、ジャンプはいずれも精彩を欠くものとなった。しかしながらロシア国籍を取得した日本人、川口選手の負けん気の強さはよく知られているところだ。もしシーズン始めの重要な大会において、頭より高く跳び、フリー演技で2つの4回転スロージャンプを成功させることが求められるとしたら、川口選手はそれをやってのけるだろう。とにかく自信を持ってもらいたい。

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