イゴリ・ルッサク/ロシア通信撮影
国際サッカー連盟(FIFA)の汚職スキャンダルは、2018年6~7月に予定されているロシアW杯の開催に関する新たな噂を生みだした。政治レベルの言い合いや経済危機が存在していても、ロシアはW杯に向けた準備を続けている。
2017年5月までに引き渡し
W杯開催国である南アフリカとブラジルの前例などからもそうであるように、従来もっとも問題視されるのはスタジアムの建設スピードである。
ロシアでW杯の試合が行われるのは11都市の12スタジアム。うち建設が完了しているのは3ヶ所だが、現在試合を受け入れることのできるのは1ヶ所のみである。具体的にはサッカークラブ「スパルタク」が所有している収容人数4万5000人のモスクワの「オトクルィチエ・アレナ」。同様の規模のタタルスタン共和国の「カザン・アレナ」では、昨年いくつかの試合が行われたものの、すぐに第16回「世界水泳選手権」(2015年7月24日~8月9日)の準備のために閉鎖された。フィールドの場所に、2面のプールが設置される。2014年ソチ冬季五輪の舞台となった4万人収容の「フィシュト」スタジアムも今のところ、W杯の準備ができていない。ここでは五輪で使用された構造物を解体して、その後フィールドを整備しなければならない。作業が完了するのは2016年の予定。
他に2ヶ所が改築中である。モスクワに位置する、ロシアのメインスタジアムでW杯決勝戦の会場となる「ルジニキ」は、2013年秋に閉鎖され、2016年末に新装開業する予定。客席の傾斜角度を変更し、フィールドに近づけながら、収容人数を8万1000人に増やす。エカテリンブルクの「ツェントラリヌイ」スタジアムでは、客席を3万5000席に増やす。どちらのスタジアムも建設されたのは1950年代だが、今回の改築ではその歴史的な外観を残す。
ニジニ・ノヴゴロド、サマラ、ヴォルゴグラード、ロストフ・ナ・ドヌ、サランスクのそれぞれ4万5000人収容のスタジアムは着工しているものの、今のところ、土壌作業およびコンクリート作業の先までは進んでいない。遅れているのはカリーニングラードのスタジアムで、まだプロジェクト自体が承認されていない。どのスタジアムも2017年5月までには完成させなければならない。
なかなか完成しないスタジアム
ロシアでもっとも物議をかもしているのが、着工してすでに10年になるサンクトペテルブルクのスタジアム。クレストフスキー島のキーロフ・スタジアム跡地で、2006年に建設が始まった。これは日本の建築家、黒川紀章氏設計のサッカークラブ「ゼニト」のホームで、重量7800トンの格納式フィールド、面積7万1000平方メートル、重量2万2000トンの開閉式屋根という最新かつ困難な技術が採用されている。
この間、多くの修正が行われ、引き渡し期限が何度も延期され、予算も何度も拡大された。最終的には総額が天文学的数字となる340億ルーブル(約750億円)に達した。スタジアム設計主任のドミトリー・ブシュ氏は、このコストを妥当な額だと考えている。「このスタジアムをヨーロッパのサッカー・スタジアムと比較するのはあまり正しくない。スライディングルーフで覆われる大きな競技場だから、まったく建物のタイプが違う。ロシアでは難度でこれに匹敵するスタジアムはない。屋根が閉じている時、広い内部で人工的な気候調整を行い、温めたり、換気したりする必要がある。これは、もちろん、非常に高価。カナダやアメリカの5~6万人収容の大型スタジアムと比較すべき。類似しているのはダラス・カウボーイズのスタジアム。北米にこのような建物は少なく、コストは10億ドル(約1200億円)ほどとなっている」とブシュ氏。
コスト削減
ロシア政府は、経済危機という条件のもと、コスト削減を迫られている。6月、W杯のコストを290億ルーブル(約640億円)減らす決定を行った。ヴィタリー・ムトコ・スポーツ相によると、ホテル基金で節約することが決まったという。「大会後にあまり需要を期待できない地方のホテルの建設を断念した」とRBC紙に語っている。
W杯のコスト見直しに関する正式な情報はない。イーゴリ・シュワロフ第1副首相は2013年、大会コストを少なくとも2500億ルーブル(約5500億円)と試算していたい。今年1月に総コストを10%抑えることが発表された。
ソチ五輪では、公式データによれば、2140億ルーブル(約4700億円)かかっている。アレクセイ・ナヴァリヌイ氏や故ボリス・ネムツォフ氏などの別の試算によると、1兆3000億ルーブル(約2兆8000億円)に達している。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。