ヴラジーミル・ペスニャ撮影/ロシア通信
―あなたのコーチは、フィギュアスケートには勝利への道が二通りあると言いましたね。一つは、規則、規範を徹底的に守ること、もう一つは、スポーツを芸術に変えてしまうことだと。あなたは後者の道ですか?
おっしゃる通りです。 フィギュアスケートはすごく難しくて辛いスポーツですが、それは芸術でもあるということを忘れてはなりません。リンクに出たら、難しい技を見せると同時に、いわば魂の一部を観客と審判に分け与えねばならないのです。氷上で傑作を創造し、舞踏し、遊戯し、そしてそれが、フィギュアスケートとその各要素を弁えている審判だけじゃなくて、一般の人にも気に入ってもらえるようにしないといけないのですね。つまり、選手の身体が彫塑的に美しく動くことで満足を得るようにしないといけません。
―そうなると、純然たるスポーツとは言えませんね。点数を失うリスクがわるわけだし…
まさにそういうことです。コーチが指示した最高難度の要素をクリアすることと、振付師がそこに込めた精神、コンセプトを伝えることとを兼ね備えることができねばなりません。
―あなたの演技は拍手喝采を浴びっぱなしでした。会場の興奮、高揚は驚くほどでしたね。
そうですね。でも、それに気をとられて調子が狂うこともありますから、うまく距離を置くことができねばなりません。私はもちろん全部聞こえてますけど、そのことはなるべく考えないようにして、プログラムの最初にある一番難しい技に集中するようにしてます。それを最高のレベルでクリアしなければなりません。その後、自信をもって滑れるようにするためですね。最初の技がうまくいったときは、気分がずっと楽になります。その後、ほんのちょっと一息つけるのです。そうなると、プログラムの終わりの方は、ひとりでに体が動くんです。ああ、しまった、あれができなかった、挽回しなくちゃ、なんて思ってイライラせずにすむのです。
―あなたはいつかこうおっしゃってましたね。「頂点に立ってしまうと、モチベーションを探すのが難しくなる」と。ソチ五輪の女子シングルで金メダルを獲得したアデリナ・ソトニコワは、この壁にぶつかっているんでしょうか?
そういう面もあるかもしれませんね。でも、オリンピックというのは特別で、エモーションの嵐です。そこで最高の成果を上げた後、すべてを最初からやり直すのは難しいことです。誰もがぶつかる壁ですね。金メダルを得て、人生の目的がすべて達成された格好になると、新たにやる気を見つけるのは至難です。でも、アデリナは強い人ですから、当人がその気になりさえすれば、さらに前を目指して戦い続けるでしょう。
―あなたは、あるインタビューで、自分はもう少女ではなく、大人の女として滑っているんだ、とおっしゃってました。
自分じゃ、そんなことは言わなかったけどなあ(笑)。そういうのは内面からにじみ出てくるものでしょう。少女のころは、全部の要素をこなすように努力して、審判ににっこり微笑みかけるだけです。でも、大人になれば、プログラム全体を通して、あるイメージを持続させねばなりません。つまり、ただ技をこなすだけでなく、魂を込めて滑り、観客が一つ一つの動きに感応するようにしなければなりません。私にとって最高の褒め言葉は、プログラムの終わりに、あるいは、なにかの要素の途中で鳥肌が立ったと言われることです。だって、それは自分が何かのイデーを表現し、感情を喚起できたということですから。女性のスケーティングはとても造形的で、最高のものには見とれてしまいます。
―世界選手権の後は、一週間くらいひたすら寝て休むんですか?
とんでもない…世界選手権のあとは、すべて予定通りだと、10~12日後には、団体戦の世界選手権があります。もしかすると、2日くらいは休みをもらえるかもしれません。3日だといいけどなあ。スタートして立ち上がるときは、非常にエモーションを消費するので、身体的な負担よりも、感情が搾り出されてくたくたになる感じですね。
―ギターを弾くと疲れがとれますか?
これは別に趣味じゃないですけど、弾きたい気分のときは、もちろん弾きます。いくつかの曲は覚えたし、歌うこともできます――一人のときはね。いい気晴らしになります。ギターを抱えて座り、ものを考えるのはいいものです。フィギュアスケート以外に夢中になれるものがあることは結構なことではありませんか。今は弾く時間がぜんぜんなくて残念ですね。シーズンが過密で、もう二ヶ月ほどギターを手にとっていません。一日、ただ寝て、ぼーっと休みたいなあ。こういう過密なシーズンのときは、時間があっという間に経ってしまいます。ついこの間始まったかと思ったら、もう世界選手権に行くためにスーツケースに荷物を詰めているんですから。
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